第9話 おっぱいに洗礼!
お婆さんは私に管理棟内の施設を教えてくれた。ランドリー、コンビニ、遊戯室、色々と充実していた。これが大学の寮生活なら楽しめただろうけど、あいにくここは所詮監獄でしかない。そして最後に案内されたのは食堂だった。
幾人かのサキュバスたちがテーブルで談笑してたり、おやつを摘まんでいたりした。
「覚えときな。ここの寮では皆同じ時間に一緒にご飯を食べるのがルールだ。食事作りは当番制だから、忘れずにやりなよ」
「部屋にキッチンありましたよね?」
食事作りの当番なんてごめんだ。家族以外の誰かにご飯を作るなんてありえない。
「そんなの知らん。ここの寮を仕切ってる奴がそう決めたんだ。それがいやなら他の寮に…」
「おいババア!もしかしてそいつが噂の新入りか?!」
横の方から子供みたいに高い、でもどこか大人の女みたいに甘ったるい響きのある声が聞こえた。
振り向いた先の壁際に沢山重ねられた畳があり、その上に一人の幼いが美しい顔立ちの女の子が寝っ転がっていた。髪の色は明るい桜色みたいなピンク。瞳は紫色。その子はこの寮にいる私を含めた他のサキュバスたちと違って、角と羽と尻尾を外に出していた。
サキュバスらしいと言えばいいのか、彼女の恰好は下着だけ。背は低い、おそらく150に満たないくらいしかない。そして胸や尻も小さい。ロリっ子って言葉がよく似合いそうな外見。だけどお腹から腰の線はきれいにクビレていて、幼さと成熟した女との狭間にしかない不思議な性的魅力がある。なんというか周りのサキュバスたちよりも一段くらい魅力が高いと言うべきだろう。一度視界に入れると、外すことに名残惜しさを感じてしまう。ピンク色の髪のサキュバスの周りには他のサキュバスが群がってる。人気者みたいだ。
「ちょうどいいね。そうさ!この子が新入りさね!あんたがここのルールを教えてくれないかい?」
お婆さんはピンク色のサキュバスに私の面倒を投げた。
「おお!良いぜババア!おい、新入り!こっちにこいよ!」
ピンク髪のサキュバスは私のことを手招きしてる。
「じゃあ私はここまでだ。何か困ったことがあったら管理室に来な」
お婆さんは食堂を後にし、結局私は呼ばれるがままにピンク色の女の方へと歩く。だけどあまり近づきたくはなかった。3メートル位距離をとって彼女の前に立つ。
「よう。初めましてオレの名はロミオだ。この寮の牢名主様だ。敬えよ、新入り」
「ロミオ?それって男の名前でしょ?仇名かなにか?」
私がそう言うと、ロミオを含む周りのサキュバスたちがクスクスと笑いはじめた。こういう女の子のクスクス笑いは嫌いだ。こまかいことを揚げ足取りして悦に浸る女の性質は大嫌い。
「くくく、お前マジで何も知らないままここに来ちゃったんだな!マジウケる!ぎゃははは!」
「じゃあ教えていただけませんかね?牢名主さん?なんであなたは男の名前を名乗ってるの?胸がなさ過ぎて男に勘違いされちゃったから?」
私がロミオを挑発したところ、周りのサキュバスたちの顔色が変わった。皆とげとげしく私を睨みはじめる。
「やめろやめろ、睨むのはなしだ。新入りをビビらせんな」
ロミオはニコニコとした笑みを浮かべながら、周りを窘める。するとすぐに周りの者たちは私を睨むのをやめた。彼女は確かにここのリーダーのようだ。
「でもいいね、お前。そういう反骨心みたいなのはここじゃ珍しい。名前は?」
「ゆめさ…むぐ…」
気がついた時には私の唇をロミオの指が抑えていた。ありえないことが起きていた。私と彼女はそこそこ離れていたのに、まるでワープみたいに距離を詰められた。
「おっと。ここじゃ本名はご法度なんだよ。サキュバスは人間の女よりも口が軽い。聞いちまった誰かがどこかでポロッとお前の名前を口にしちまうかもしれない。そうしたら外に遺してきた家族や友人に迷惑が掛かるぞ。身内からサキュバスが出たって、どんだけ恥ずかしいことかお前にもわかんだろ?オレが聞いてんのは源氏名だよ。ここやパークで名乗るサキュバスとしての名前だ」
「そんなの決めてない」
「そうか。なら早い所決めろ。ちなみにここじゃみんな源氏名には男の名前を付けるのが伝統だ」
変な伝統があったもんだ。偏見の女のイメージの塊みたいな存在のくせに、名前は男なのか。何かの皮肉なのか。でもそんな馬鹿馬鹿しい身内のノリに付き合うつもりはない。
「いらない。そんな名前、別にいらない…」
「おいおい。それじゃあオレたちお前を呼ぶとき困っちゃうんだけど?」
「別に。あなたたちに呼ばれる用なんて私にはない。だから私は困らない」
周りのサキュバスたちがざわざわと騒ぎ始める。聞こえてくる言葉はもちろん私にとって好意的なものではなかった。曰く『生意気』『むかつく』『調子乗ってる』などなど。
「あーなるほどなるほど。お前さんはまだ勘違いしてるわけだ。アイリーンのゴリラハゲやロメオのウスラハゲがお前のことに手を焼くわけだわ。お前はなんもわかってない。…よしわからせてやろう!」
そう言ってロミオはまたもワープみたいに私の背後に移動した。そして私の両脇に手を差し込んで、私の乳房を思い切り掴んだ。
「お?ぶかぶかなシャツのせいでわかんなかったけど、なかなか立派なもんを持ってるなお前。ははは!」
かなりの力を込めて私の胸を揉み続けるロミオ。当然痛い。すごく痛い。
「やめて!触らないで!痛い!痛い!」
「あーん?痛いだぁ?おいおい、オレはおっぱいを揉むことに関しては右に出る者がいないテクニシャンなんだぜ?いいから力抜けよ。すぐに気持ちよくしてやるからな!ぎゃははは!」
ロミオだけじゃなく他のサキュバスたちも私のことを見て笑ってた。痛みと恥辱でどうにかなりそうだった。だけどさっきから振り払おうとロミオの腕に力を込めてるのにちっともビクともしなかった。わたしよりずっと小さな体でとんでもない怪力の持ち主だ。
「もうやめて。痛いの。痛いんだって。あなただってわかるでしょ。揉まれたって気持ち良くなるわけないよ。ただの脂肪なのに…」
「そりゃ人間様の話だろ?おまえはサキュバスだ。いいか?昔の人間の体の都合は忘れろ。そうだな。今のお前からはロメオの匂いがする。今朝会ったんだな?ならあのウスラハゲのおっさんのことを思い出せ」
彼女の言うロメオとはロメロ先生のことなのだろう。だけどなんで先生のことを思い出す必要があるのか?
「ほら。思い出せ。あのおっさんの雄の匂いを。そして優し気な笑顔をはぎ取った先にあるだろう獣の顔を想像しろ」
ロミオは私の胸を揉みながら、私の耳に甘いハスキーな声で囁く。
「お前よりも大きな体でお前にのしかかるんだ。そしてその大きな手で胸をぎゅっと握る。オレよりも大きな声でお前の耳を舐るんだ」
今朝もそうだった。全然かっこよくない先生で私は口にできないような卑猥な妄想をしてしまった。それを思い出してしまい、私の呼吸が少し早く、そして荒くなってしまう。
「あいつはお前を獣の如く弄るんだよ。なあ?それはどれだけ痺れちゃうんだろうな?男なら女の胸が好きだ。あいつだってきっとそうだ」
先生の体の重さに耐えながら、彼の手に胸を激しく揉まれて…。それはきっと痛みよりも…。甘く蕩けるような恍惚に…。
「なあ?痛みはあるか?」
「…ない…の」
もう乳房の痛みは感じなかった。それどころか。
「気持ちいいだろ?」
「………は……い…っん…」
私はロミオの手でしっかり感じていた。そして彼女は私から手を離して、背中を突き飛ばした。私は床に膝とついて倒れる。
「くくく、あははははははは!やべぇマジサイコー!反抗的な女を調教したがる男の気持ちがわかっちゃったよ!はははは!」
ロミオが腹を抱えて笑ってた。さらに他のサキュバスたちも私のことを笑ってる。
「これでわかったろ?乱暴に触られて痛いとかそんな上等な感覚はオレたちにはないんだよ!強すぎる性感がそんなものを全部かき消しちまうんだ!そりゃそうだよな!男は女の体を雑に扱うもんだ。それでいちいち萎えてたら俺たちは精気なんて吸えないからな。いつでも男とヤレるように出来てんだよ。どんなに下手な男相手でもイキまくれるようにな!」
「何それ…そんなのおかしいよ…。私の体は男のためにできてるわけじゃないのに…」
「だけどそうなっちまったんだから、嘆いたってもう遅い。お前はサキュバスだ。オレたちと同じな」
認めたくない。そんなのおかしい。絶対に間違ってる。
「新入り。すぐに源氏名決めろ。お前はここ以外に生きられる世界はもうないんだよ。身の程を弁えろ。いいな?」
ロミオは冷たい声で私にそう吐き捨てた。辛かった。なんで私はこんな目に合わなきゃいけないのか。私は何も悪いことしてないのに。
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