○○○からの卒業⑩




卒業式も終わり、告白も失敗し、一人黄昏ていると下校するクラスメイトが手を振った。


「じゃあな、史暗ー! 高校へ行っても頑張れよー!」

「あぁ」


史暗も手を振り返すが心の中は晴れない。 だが笑って中学を巣立つ友を見ていると、ここで立ち止まっているわけにはいかないとも思った。 校門を出て外へと一歩踏み出していく。


―――俺には味方、仲間がこんなにもいるじゃないか。

―――それでいい。

―――次からは中二病の俺を心から愛してくれる人を好きになれば、それで・・・。

―――・・・あぁ、綾音さん・・・。


だがやはり簡単には心が追い付かない。 フラれたことを思い出し、再度感傷的になっていると近くから不良の声が聞こえ思わず隠れてしまう。


―――四月から、あんな不良がたくさんいる高校へ通うんだよな。

―――大丈夫か、俺・・・。


自分もその輪の中に入れるかと、こっそりと様子を窺ってみる。 だがどこか様子がおかしい。 目を凝らし観察すると、不良三人組に囲まれる綾音の姿が見えた。


―――え、綾音さん!?

―――うわぁ、綾音さん、あんな怖い人たちとも絡むんだ・・・。

―――気が強いのは知っていたけど、そこまでだとは流石に驚き・・・。


だがよく見るとただのナンパだということが分かった。 綾音は困ったように笑っている。


―――よく見ると綾音さん、完全に引いてるし!

―――困っているんだから助けにいかないと駄目だよな。

―――綾音さんが可愛いのは分かるけど、あんな顔をさせるのは許せない。

―――怖いけど勇気を出すんだ、俺!

―――ここでずっと隠れていても、カッコ良くはないからな!


思い切って彼らの前に出ると、綾音と不良の間に割り込んだ。


「止めろ! 彼女に手を出すな!」

「史暗!?」


綾音は史暗の突然の登場に驚いている。 中二病の史暗からしてみれば、これだけ心が奮い立つ場面も珍しい。 ただし史暗は喧嘩なんて全くできず足は小刻みに震えている。


「あぁ? 何だよお前。 包帯巻いて怪我でもしてんのか? なら大人しく下がってろよ。 また病院送りにされるぞ?」


近付いてくる男に言う。


「いや、俺にも触れるなよ? 危険だからな!」

「は? 何を言ってんの?」

「いいか? 俺のこの指にはな、邪悪な闇が眠っているんだ! この包帯を外したらお前らなんて一瞬で闇行きだぞ!」


史暗は片手の指全てに包帯を巻いている。


「おー、怖い怖い。 ちょっとその闇っていうヤツ、俺たちに見せてよ」

「そんな簡単には見せられない。 一度解放すると力が強過ぎて、閉じ込めるのが大変――――」


そう言っている途中で、男は躊躇うことなく指の包帯を解いた。


「あぁーッ!? 何をする!!」


慌てて指を抑える。


「ほら、早くその闇とやらで俺たちを包み込んでみろよ! 一切闇なんてものはこの目で見えないけどな!」

「くッ・・・」

「中二病みてぇなダサいことを言ってんじゃねぇ!」

「中二病はダサくない! でもお前らみたいな連中には、中二病のよさは絶対に分からないだろうな。 その空っぽな頭では!」

「あぁ? 何だとぉ?」

「ひぃッ」

「史暗、危ない! ちょっと、私の友達に何をするのよ!」


距離を詰めた男に綾音は横から蹴りを入れる。 男は一撃でその場に崩れ落ちた。 他の男はそれを見て逃げていった。 史暗は何が何だかよく分からずボーっと見つめている。


「史暗、大丈夫? 怪我は?」

「え、あ、あ・・・」

「あー、私、空手を習っているんだ。 史暗は私を助けにきてくれたんだよね? ありがとう。 とてもカッコ良かったよ」

「ッ・・・」

「じゃあ、友達が呼んでいるからまたね」


そう言うと綾音は手を振りながら笑って去っていった。 そこでまた思うのだ。 やはり中二病を受け入れてくれる女の子よりも、拒否されても綾音がいいのだということを。



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