○○○からの卒業⑪
綾音の姿が完全に消え、ただ一人ポツンと残されたが史暗は幸福感に包まれていた。 不良たちは逃げ去り、倒れていた男も頭を抱えながらどこかへ行った後だ。
―――か、カッコ良い・・・?
―――この俺が・・・ッ!?
―――いや俺がカッコ良いだなんて今更感はあるが、綾音さんに直接言われたのは初めてだ・・・。
―――物凄く嬉しい・・・!
―――それに綾音さん、カッコ良かったなぁ。
―――俺に負けないくらいカッコ良かった。
―――普段は元気で可愛い笑顔を浮かべる人なのに、喧嘩をする時は美しく輝いてしまうなんて・・・!
―――そんなの、諦められるはずがないじゃないか!
―――やっぱり俺は、綾音さんが好きだ!
不良たちに囲まれても、怯えもせず蹴り飛ばしたその姿が今も脳裏に焼き付いている。 自分が同じようにできたらどんなにカッコ良いかとも思うが、それ以上にその姿が史暗のよく知る人間と重なった。
―――そう言えば綾音さん、空手をするような男勝りなところもあったんだな。
―――まるで俺の姉さんみたいだ。
―――姉さんはカッコ良くて好きだ。
―――だから俺もカッコ良い綾音さんのことを、好きになったのかもしれない・・・。
今更だがここで自分はシスコンだと改めて自覚する。 だが、それを悪く思うことはない。 史暗自身、綾音のことや姉のことが好きなことを誇っているからだ。
―――よし、俺決めた!
史暗は走って来た道を戻っていく。 すると今朝に出会った後輩三人と会った。 史暗のような中二病で、カッコ良くなるにはどうすればいいのか尋ねてきた後輩たちだ。
「あ、史暗先輩!」
「君たち・・・」
「どうしたんですか? 様子が変ですね」
史暗は首にかけていた首飾りを外し、彼らに渡した。 鞄に入っている大量のアクセサリから一つ取り同様に渡していく。
「これをあげよう」
「え、いいんですか!?」
「あぁ。 君たちは十分にカッコ良いが、これから先はもっとカッコ良くなるだろう。 その美しさを見せつけ、中二病を広めるんだ。 中二病は素晴らしいものだとな!」
「「「はい!」」」
―――中二病の素晴らしさはまだちゃんと分かっている。
―――中二病は好きだ。
―――だから中二病の将来を彼らに任せれば、未来も安泰だろう。
―――どうか中二病を滅ぼさないでくれ。
―――俺は応援しているから。
「・・・先輩? 大丈夫ですか?」
「もし君たちが未来に迷ったら、己の心に問いかけてみろ。 その出た答えに素直に従うんだ。 分かったな?」
「「「はい!」」」
後輩たちの返事はさぞ元気がよかった。 それを見て史暗も満足気に頷く。
―――いつか彼らも、中二病を止める時が来るのかもしれない。
―――それでも中二病であったことには、誇りを持っていてくれ。
三人と別れ学校へ戻ると、丁度中二病のクラスメイト三人が正門から出てきた。 いや、最後に出てきてもらった。 他の誰にも見ることのできない、史暗だけの最大の友人たちに。
「おう。 そんなに急いでどうした? 忘れ物か?」
窓から世界の平和を願っていた彼は言った。
「俺決めたんだ。 中二病を止めることにする」
今の史暗にはもっと大切なことができたのだ。
「何だと!? 今度は一体何があったんだい?」
魔界からやってきた堕天使の彼が尋ねた。
「やっぱり綾音さんを諦め切れないんだ」
設定よりも大切なことを見つけたのだ。
「でも中二病の歴史がある時点で、もうアウトなんだろ?」
鞄に命の宿る大量のアクセサリを持つ彼が首を捻った。
「そのことなら大丈夫。 中二病だという歴史を抹消する方法はちゃんとあるから」
史暗は答えながら満足気に笑顔を浮かべた。
「? ・・・よく分からないが、顔付きが変わったな」
「あぁ。 今は意志が揺らいでいないみたいだ」
「ここまでいくと、もう俺たちには止めることができねぇな。 後悔しないなら、それを選んでもいいんじゃないか?」
「ありがとう」
史暗は眼帯と手と指に巻いていた包帯を解き、学ランを正しく着て、ピアスやリングやネックレスなどのアクセサリを全て外した。 もう彼らは必要ないのだ。
自分一人で四天王を作り上げる必要はなくなった。 そう決心した時、彼ら三人の姿はすぅっと虚空へ消えていた。
「待ってろよ。 俺の綾音、今すぐに追い付いて・・・。 いや、迎えにいくからな!」
瞳に宿る炎をメラつかせ、覚悟を決めた史暗であったが、実は心の中では盛大に歯車がから回っているのだった。
―――そうと決まれば・・・。
史暗は一人町へと繰り出していく。 自分を変えるため、綾音に振り向いてもらうために。
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