○○○からの卒業⑧
式が終わると教室へ戻る。 その時の史暗は晴れ晴れとした顔をしていた。
「史暗、お疲れー! お前は相変わらずだったなぁ。 面白かったぜ、卒業式」
「本当か!?」
「あぁ。 史暗のおかげで、忘れられない卒業式になった。 明日から会えなくなるなんて寂しいわー。 つか、史暗ってどこの高校へ行くんだっけ?」
「あー、えっと・・・。 悪悪第二高校・・・」
女性にモテないランキング三冠王の史暗は、当然あまり勉強ができない。
「あぁ! 駅近のところ? ほら、不良がたくさんいるって噂されている!」
「あぁ、そうそう・・・」
―――頭悪いからそこしか入れなかった。
―――・・・なんて、言えないよなカッコ悪いから。
「史暗なら不良集団に混ざっても違和感ないかもな。 まッ、離れ離れになっても頑張ろうぜ!」
そう言って史暗の背中を叩き去っていく。
―――やっぱり俺って、みんなから愛されているんだ。
―――えっと、綾音さんは・・・?
教室を見渡してみるが彼女の姿はない。 彼女には予め『卒業式が終わったらグラウンドのど真ん中へ来てほしい』と伝えてあった。 もしかしたら教室へ戻らず直接向かっているのかもしれない。
―――マズい、俺もそろそろ向かわないと!
―――・・・まぁ、ヒーローは遅れて登場するのが当たり前でカッコ良いとか言うし?
―――少しくらいあえて遅れていくのもいいだろう。
―――見ていてくれよ、姉さん!
―――今から俺が輝く姿を!
グラウンドでは綾音がたった一人でそこで待っていた。 卒業式の後、他に誰もいないこともあって遠めに見てもとても美しく思えた。
「あ、史暗ー! もう遅いよー。 私、卒業式が終わったらそのままここへ来たのに」
「そうだったのか!? そこまで待たせるつもりはなかったんだ、申し訳ない。 どのようなお詫びをすればいいか・・・」
「いいよ、そんなお詫びなんて。 それよりこんなグラウンドのど真ん中へ呼び出されたから、ドキドキしちゃった」
「ッ・・・」
綾音は恥ずかしそうに顔を逸らした。 つまり何が理由で呼び出されたのか分かっていてここへ来たということだ。 つまり脈あり。 やはり自分のことを好いていてくれたのだ。
そのような思考が頭の中で目まぐるしく回った。
「それで、話って?」
「あぁ、そうだ」
史暗は姿勢を正し恰好付ける。 膝を地面に立て、まるでジュリエットを求めるロミオのように。
「嗚呼、貴女は女神のように美しく、とても愛おしい。 そんな貴女に相応しい者は一体誰なのでしょうか? 探してもほんの一握り、いや、手で数え――――」
「それを一言で言うと?」
「好きです、付き合ってください!」
勢いよく立ち上がると、全力で頭を下げて手を差し出した。 頭の中でリハーサルは何度も行っていたが、多少勢いに任せたところはある。 それでも兎も角、目的は達成したのだ。
―――よし、言えた!
―――あとは綾音さんが俺の手を取れば成立だ。
―――手を取れば・・・手を・・・取れ・・・あれ?
一向に手を取られる気配がなく、ゆっくりと顔を上げる。 綾音は悲しそうな瞳で史暗を見下ろしていた。
「どうして・・・」
「あー、ごめんね。 私、中二病の人を彼氏にはしたくないんだ」
「え、え、待って! 中二病の俺が嫌いか!?」
「ううん。 中二病の史暗は面白くて好きだよ」
「だったら!」
「でも彼氏となったら話は別なの」
史暗はその言葉を聞き膝から崩れ落ちた。
―――・・・姉さんの、言った通りだった・・・。
―――どうして俺は姉さんの言うことを聞かなかったんだ・・・?
―――いや、まだだ。
―――まだ終わっていない、可能性はある!
「実は俺、今日をもって中二病を卒業しようと思っているんだ!」
「そうなんだ?」
「それでも駄目か?」
「うん、駄目」
「ッ、どうして・・・」
「“中二病”っていう黒歴史があるだけでもうアウトなの。 ごめんね」
「・・・」
「高校へ行っても、お互い頑張ろッ!」
そう言って笑顔で彼女は去っていった。 ゆっくりと崩れ落ちグラウンドに横たわる史暗の横を、季節外れの冷たい風が吹いていった。
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