○○○からの卒業②




重度の中二病だと自覚していた史暗が、それを止めることにしたのには、あるきっかけがあった。 時を二週間程遡り、悩みを抱えていた史暗は姉の部屋を訪れていた。


―――姉さんには、話しておいた方がいいよな・・・。

―――いつも俺のことを可愛がって大切にしてくれるし、秘密にしておくっていうのも・・・。


“何をするにも明南に絶対話さなければならない”という決まりはない。 だが史暗はそれに自然と従っていた。


「あ、あのさ姉さん。 話したいことがあるんだけど」

「ん、何?」


明南はベッドの上でくつろぎながら雑誌を読んでいる。 何かあるのは分かっているだろうが、なかなか話し出さないことに決心がつくのを待っていたのだ。


「え、えっと・・・。 二週間後、卒業式の日、好きな子に告白をしたいんだ」


それを聞いた明南は雑誌を置き、ベッドに座り直した。


「へぇ、いいじゃん! 青春だねぇ。 応援するよ」

「よかった、ありがとう」

「それに何度も言うけど、いちいちアタシに許可を取らなくてもいいんだって」

「何でも姉さんに言わないと気が済まないっていうか、落ち着かなくて」


明南は複雑な表情だが、何となく嬉しそうである。


「相変わらずだなぁ。 その好きな子って、長いこと好きだったのか?」

「うん。 中一の時から、ずっと」

「そっか。 長年抱いていた恋、実るといいな」


明南に背中を押され史暗は自分の部屋へと戻った。 ペンと紙を用意する。 ただ手紙ではなく自分の口で伝えると決めている。 告白の際に何と言おうかを試行錯誤しようとしたのだ。


―――『結婚を前提にお付き合いしてください』とか?

―――それだと重いか。

―――シンプルに『付き合ってください』は、つまらないもんなぁ・・・。

―――『毎朝お前の作った味噌汁を飲みたい』とか古いし。

―――『君の瞳に惹かれたこの俺と、生涯共にすると決めてくれたら・・・』


メモを取っていると明南がドンドンとドアを大袈裟に叩いてきた。


「ちょっと! 史暗!」

「何だよ姉さん。 俺は今忙しいんだ、後にしてくれないか?」

「これを見て!」


明南は問答無用に部屋へ入り、史暗の机に雑誌を打ち付けるように置いた。 自然と開かれているページに目を落とす。


「ッ、はぁ!?」


そこには『付き合いたくない男ランキング! 第一位は中二病』と書かれていた。 ちなみに『第二位はマザコン・シスコン 第三位は頭が悪い・幼稚』と書いてある。 

まるで金づちで側頭部を殴られたかのような衝撃を覚えた。


「何だよ、これ・・・」

「全部アンタに当て嵌まってんねー? 寧ろアンタのプロフィール?」

「・・・」


からかうように明南が言う。


「告白をするならせめて中二病を止めないとフラれるかもよ?」

「いや別に、まだフラれるとか決まったわけじゃ」

「好きな子のために中二病を止める覚悟はあるのか?」


そこで史暗は好きな女子のことを思い出す。


「・・・でも綾音さんは、中二病の状態である俺と仲よくしてくれるんだ。 話しているとたくさん笑ってくれる。 それでも中二病を止めろと言うのか?」

「付き合うってなったら別。 女ってそういうもん」

「・・・」


雑誌をよく見ると10代のランキングのようだ。 それが全てというわけではないが、同い年の綾音も当然10代なため明南の言う通りなのかもしれない。


「アンタがもし中二病を止めるっていうなら協力するよ」

「姉さんも俺の中二病は嫌い?」

「いや? アンタの中二病は面白いから気に入ってる。 でも好きな子のためだったら仕方ないからな」

「もし俺たちが姉弟じゃなくて、俺が姉さんに告白をしたら?」

「もちろん断るよ」


―――そんなにかッ・・・!

―――まぁこれも、綾音さんのためだと思えば・・・ッ。


「・・・分かった。 俺、中二病を止めるよ」


姉の明南に言われたこともあり、今まで自身のアイデンティティーであり大切だった中二病を捨てることにしたのだ。



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