○○○からの卒業③
史暗は学校へ行く準備を終えた。 学ランは着ているが、卒業式であるというのに普通の格好ではない。 中二病らしい、いかにもといった服装だ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。 ごめんね、折角の卒業式なのにお母さんもお父さんも見に行けなくて」
「仕方ないよ、共働きだし。 いつもご苦労様」
明南よりも先に家を出た。 その見た目から自然と注目を集める。 通行人はもちろんのこと、学校でも密かに人気者だった。
「先輩、先輩! 史暗先輩!」
「ん? ・・・おぉ、可愛い後輩たちではないか」
背後から呼びかけられ足を止めた。 時には後輩からも慕われる。 今前にいる三人組は、特に史暗を慕ってくれる中一の男子生徒だった。
「早いですが、ご卒業おめでとうございます! 卒業式は先輩のことをずっと見ていますね!」
「ありがとう」
「史暗先輩! 僕たちは先輩みたいにカッコ良い中二病になれますか!?」
「んー、そうだなぁ・・・」
史暗は後輩たちをまじまじと観察する。 『ふぅむ』などと口ずさみ、思い切り格好付けるように目を瞑り首を振った。
「三人共、惜しいな。 まずは君、金髪がどうも気に入らない。 中二病は黙って黒だ。 漆黒がよく似合う。 そんなに金を入れたいなら、メッシュにして金を入れるくらいだな。
その方が遥かに目立つだろう?」
「はい!」
「それで君は、自分のことを“僕”呼びにするのを直す。 幼さは中二病にいらない。 それで君は見た目がもうまとも過ぎる。 それではまるで普通の中学生ではないか。 俺みたいにもっと着崩せ」
「はい! 参考になります!」
「俺たちが成長したかどうか、また見にきてくださいね!」
「あぁ」
―――今の中学校と俺がこれから行く高校は場所が遠い。
―――こんなに可愛い後輩たちと会えなくなるなんて、寂しいもんだな。
―――・・・それに俺は、卒業式が終わると同時に中二病を卒業する。
―――だからもう、彼らにアドバイスをしてやれないのかもしれない。
後輩たちと一緒に学校へ向かった。 クラスへ着くと早速とばかりに女生徒が話しかけてくる。
「お、史暗! 今日も決まってんねー」
「ありがとう」
史暗は中二病だが、根っこの人の好さもあり男女問わず人気者。 もちろん、ただからかわれることも多い。
「史暗、史暗! 見てくれよこれ!」
そう言って見せられたのは、たくさんのドクロで作られたネックレスだった。 一つ一つのチェーンが大きく、かなりゴツくて重そうだ。
「何だよこれ、カッコ良い・・・!」
「だろ? 昨日手に入れたんだ」
「いくらだった?」
「五万くらいかなぁ? 史暗が欲しがると思って買っておいたぜ」
「五万・・・。 へぇ・・・」
眺めていると爽やかに笑いながら、押し付けるよう渡してきた。
「これ、史暗にやるよ。 五万だと流石に高いだろうから、特別に一万でいいぜ」
彼はいつも中二病に使えそうなアクセサリを売ってくれる友達だ。 しかも毎回本来の値段よりも大幅に安くしてくれる。 と、史暗は思っている。
単純に騙されているのだが、物自体に満足しているため全く気付いていない。
―――ほしい、ほしい!
―――いつもより安いじゃないか!
―――一万ならもちろん買・・・。
―――・・・あぁ、駄目だ。
―――俺は明日から中二病ではなくなるんだ。
―――持って帰っても、すぐに処分するだけ・・・。
「ごめん。 今日はいらないや」
「はぁ!? 何でだよ! いつも買うじゃねぇか!」
「色々事情があって」
友達は不満そうにしていたが、それ以上何か言うこともなく他のところへと行ってしまった。
―――突然普通に喋るとなっても、きっと難しいよな。
―――アイツらに頼んで話の練習相手にでもなってもらうか。
窓際にいる一人へと近付いていく。 彼は眼帯をして片手に包帯を巻いている。 窓から外を睨み付けるよう視線を向けていた。 明らかにただ呑気に外を見ているといった感じではない。
「何をしているんだ?」
「・・・俺の左手が疼くんだ。 向こうから邪悪な気配を感じる。 この学校に被害が及ばないために、俺がここで見張っているんだ」
―――うわぁ、カッコ良いなぁ。
「あのさ、相談があるんだ。 隣の空き教室まで来てくれないか? 外、見ていてもいいからさ」
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