第4話 アルカナム・レミニセンス

ーー何時間。何十時間戦っただろう、


ーー何度死んで、何度生き返ったのだろう。


この世界では、この仮初の肉体がどれだけ傷ついたとしても、死ぬ事で何度だって復活する。

だが精神は違う。傷ついた痛みを、死んだ時の痛みを、苦しみは残り続けるのだ。


そうして疲弊し、すり減らしていった俺の精神は遂に限界を迎えていた。


「はぁっ…はぁっ…!」


もはや剣を振るう気力は無く、ただ剣を地面に突き立て、杖代わりにして何とか倒れそうになる体を、意識を繋ぎ止める。


「なんで…どうしてそこまでして立ち上がるの」


対して彼女は驚愕の声を漏らしていた。

見ると、その表情には驚きと、疲れが混じっていた。


……いや、それも当然だ。彼女も心ある存在であるのならば、人を痛め、苦しめ、殺し続ければ普通は精神は疲弊していくだろう。

つまり、彼女もかなり消耗しているわけだ。ならばーーまだ勝機はある。


「なんでって……それは、守りたいものがあるから、だろうな」


無理矢理笑顔を作りつつ、俺は思った事を答える。


……そうだ、まだあの世界にはやり残したことがある。俺がまだ死んでいないのならば、こんな所で立ち止まるわけにはいかない。


「……そうだとしても、今の君をこのまま返すわけにはいかないよ。例え君が再びあの世界に戻ったとしても、死神に勝てる可能性はない」


「どうして…そう言い切れる?」


「君には奴を、死神を倒す覚悟が足りないんだよ。何故ならーー君はまだ記憶を思い出していないから」


「どういう、ことだ…?」


「なら、逆に聞くけど、君が殺された大切な人の姿をーー本当に覚えている?」


「っ…それ、は…」


名前は思い出せる。イリスーー俺の相棒にして半身とも言える存在。だけど、その姿、その性格、それらを思い浮かべようとも、霞がかかったかのように何故だか思い出すことができなかった。


「君は君自信がなぜ記憶を失っていたのか、それすらも思い出すことができない。それ故に君の持つその固有魔術すら充分に使いこなすことができない」


「っ…!」


彼女の言っている事に俺は反論ができなかった。

それは自分でも今まで気付いていなかったが故に的を射ていたからだ。俺は今のこの力を十分に発揮する事ができていない。


「それでも俺は……!」


「……もし君が記憶を思い出すことができていたのなら、勝機はあったのかもしれないね」


そういって彼女は剣を掲げーー地に突き刺す。


「この一撃で君が死ぬことは無い……だけど、永遠に閉ざされた水晶の中で眠ってもらうことになるけどね」


そして一言唱える


「『アルカナム・レミニセンス』」


ーーーーー


何故だろうか、俺は初めて聞くその言葉を知っているような気がした。


次の瞬間、彼女を中心に巨大な魔法陣が展開され、そこから津波のように水晶が自分めがけて押し寄せてくる。


「なーーー」


それは茨のように形成され、避ける隙すら無く両方の手足を縛り上げられると、一瞬にして厚い水晶に覆われ、身動きが取れなくなり、それはパキパキと音を立てて体全体に侵食していく。


既に抵抗する気力すら残っていない体ではなす術もなく、意識が遠くなっていく。


「それでも……っ…」


遠ざかる意識の中、彼女の姿を見ていた。


白く長い髪に、水晶のような瞳。薔薇の剣……


そして、あの技をーーあの少女を俺は知っている


ーーいや、そうか。


そこで俺は全てを理解した。


俺が失った少女の事を。そして、どうして記憶を失ったのか。


そうだ、彼女の正体はーー

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