第3話 水晶と薔薇の剣士

3話前半


次に目を覚ますと、俺は再び白に部屋に立っていた。


慌てて頭に、首に手を触れ、問題がない事を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。


辺りを見渡してみても、地面には血痕などはなく清潔感のある白だけが存在するだけだった。


今のは……幻覚だったのだろうか?


だが、俺は確かに先ほど首を切られていたはずだ。先ほどの光景は鮮明に記憶している。あれがただの幻覚とは到底思えない。


一体どういうことなのだろうと訝しんでいると


「ここは君の心の世界。この世界で何度死んでも、本当の意味で君が死ぬことはない……だから安心していいよ」


彼女はそう言って何かを振り払うかのように白い薔薇の剣を横に薙ぎ


「ただまあ、傷を受ければ相応の痛みを味わうことになるけどね。……さて、君がこの世界に永遠に留まるというのなら今の一度で終わらせる。だけど……まだ向こうの世界に戻るというのなら、次は容赦はしないよ」


そして再び剣を構え直し、こちらに剣先を向けてきた。


「……わからないな。どうしてこんな事をする必要がある、こんな事に何の意味がある?」


そう、俺には彼女がこんな事をする意味を知らない。ここに止まらせたところで彼女に何のメリットがあるというのだろうか。素直に思った疑問を投げかける。


「……意味は、あるよ。ただ…今の君に教えるつもりは無いけどね」


彼女は表情を変えず一蹴する。反応を見るに、どれだけ問いかけても、本当に教える気はないのだろうと理解した。


「……そうかい。じゃあ、話は戻るが、俺はこの世界に留まるつもりはない。……それに俺はまだ向こうでやり残したことがある。だからお前には悪いが……抗わせてもらうぞ」


そう言って腰に下げた愛剣を引き抜き、構える。できれば会話で解決をしたかったのだが、向こうがその気がないのであれば仕方がない。


「……そう。やっぱり君は変わらないんだね」


一瞬、寂しそうな表情をする。しかしすぐに鋭い視線をこちらに向き直し


「だけど、今の君じゃ死神どころか、私を倒すこともできないよ」


「……どうしてそんなことが言い切れる?」


「それは……君が一番よく知ってるはずだよ」


次の瞬間、眼前に剣先が迫ってきていた


「っーーー!?」


その攻撃を紙一重で避ける。先程以上に相手に注意して見ていたが、だがそれでも……相手の攻撃が早すぎて剣先が見えなかった。


……正直、剣術に関してならばそれなりに心得ていると思っていたが、間違いなく相手はそれ以上に手練れだ。

少なくとも、同じタイプの武器でここまでの相手を俺は見た事がない……はずだ。

気づけばたらり、と頬に冷や汗が流れていた。


「なんだよ、今の…最初の攻撃といい…本当に人間か?」


皮肉混じりにそういうと、彼女はさも当たり前のように答える。


「人間だよ。ただの…君より強い人間なだけ」


「そうかよ。それなら、お前を超えられる可能性は充分あるわけだ…!」


剣を体より後ろに下げ、構える。その構えを感じ取ったかのように刀身は淡い緑色の光を発する。


これは本来魔力を様々な属性に変える魔力変換器と、特定の動きをアシストし、威力を上げるモーショントレーサー。これら二つの機能を持って発動できる強力な技…絶技(スキル)。


何故この機能がアルさんが作成した武器に実装されているのかは定かではないが、今相手を倒す活路はこれしかなかった。


「っ…はぁっ…!!」


足に力を込め、地を蹴り一気に加速する。


単発スキル『ソニックリーパー』


モーションアシストと、風属性による加速によって生み出される高速斬りは、並みの人間では反応することすら難しい。


「なっ…!?」


だがーーそれを当たり前のように剣で、受け流される。そして、さらに驚くことに、彼女の刀身は眩い黄色の光に包まれていた。


俺はその攻撃を……いや、『絶技』を知っている。


次の瞬間、急所に向けて高速に打ち出される三連突き。咄嗟に固有魔術を発動しようとしたが、しかし


「なっーーー」


それを避けることは叶わずーー激痛と共に意識を失った。


そして、気づくと俺は再び白い部屋に立っていた。


……どうやら、本当にこの世界では俺は死なないようだ。

だが、後大満足にも関わらず、先程受けた攻撃の箇所が無性にむず痒く感じた。


そして、この段階でいくつか理解したが……まず、どうやらこの世界では俺の固有能力……いや、魔術は使用できないようだ。

あの攻撃を避ける際、咄嗟に能力を使おうとしたのだが、うまくいかなかったのだ。結果、攻撃を喰らい、そして死ぬことになった。厳密には死んではいないのだが。


そしてもう一つは、彼女が先程使った技……あれは間違いなく絶技だ。

……どうして彼女が知ってるのかわからない。……だが、彼女の容姿は本当に能力を使用した後の自分と全く同じなのだ。もし、彼女が最初に言った通り俺と彼女は同じであるならば、絶技を知っていても何らおかしなことはない。だが、そうするとかなりまずい状況だ。


俺が放つ絶技は彼女も知っている。つまりそれは攻撃を読まれる、と言うことだ。


……この絶技は確かに強力だが、弱点も存在する。それは、絶技は一連の動作がほぼ固定化されているのだ。

つまりパターンを理解されてしまうと、対処される確率が非常に高くなる。そして、相手の技量は俺よりも遙かに上だ。例え如何なる絶技を放ったとしても全て読まれてしまうだろう。

そして、自身の固有魔術が使えない以上、これで俺に残された勝算は一つしかなかった。


それは……俺が自分自身の技量で、彼女を超えるしかないということ。


「なら……やるしかない」


正直、どれくらいかかるかは分からない。だが、彼女も人間であるならば、す何度も戦う事で少しずつでもその実力を埋める事ができるはずだ。


あの水晶と薔薇の剣士に立ち向かうためーー覚悟を決める。


「悪いが……俺は諦めないぞ。その先に希望がある限り」

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