第10話 真実

「はい、」


近くのカフェに入り、少し落ち着いた綾沙に、

コーヒーを渡す。


一口飲んだ彼女に、さてと質問をする。


「さっきの話なんだけど、どういうこと?」


もう一口飲んだ彼女は、静かに話しはじめた。


「……姫野さんのこと、好きになっちゃったんでしょ?

それで私は邪魔になって、だからいきなり別れよって言ってきたんでしょ?」


「いや、あいつとは付き合ってないぞ?」


勘違いをしている彼女に、淡々と告げる。


「じゃ、じゃあ!なんで、私とは別れた、の?」


「綾沙、浮気してただろ?俺、見ちゃったんだよ、

綾沙が俺の知らない男と手を繋いで歩いてるのを」


「え?それは…いつ?」


「別れようって、言った日」


そう告げると、彼女は何かに気づいたような顔をした後、

全てを諦めたような顔となり、目の光は薄まって見えた。


「そっか、そっちだったんだ。

バチが当たったのかなぁ、あんなことしてたから……」


「どういうことだ?」


「恋人代行って言うんだけど、レンタル彼女ともいうかな。

お金をもらって、一時的にその人の彼女になるっていう。

きっと見たのはこのショッピングセンターでしょ?あの日は、ここだったから」


恋人代行レンタル彼女

なんとなくだが聞いたこともなくもない。


「私さ、あんまりお金、なかったじゃん?それで、なんかこう、

稼ぎたいなって、もっとすごいプレゼントも、渡したいなって。

それで、友達に聞いたら、こういうのもあるって教えてもらったから。」


そこまでいうと、また一口コーヒーを飲み、

どこか言い訳をするような、諦観したような何とも言えない表情で、


「最初は抵抗あったんだよ。でもともだちにも試してみなよって言われて、

もらえるお金も多いし、お客さんもみんな優しいしで、、、」


そこまでいうと、少しずつ涙を流しはじめて、


「それでもだんだん、私がやってることはすごい酷いことなんじゃないかって

思えてきて、でもそんな時に、蓮くんが前写真見せてくれた姫野さんと、

一緒にいるのを見て、その後の誕生日も、きっと姫野さんに渡すところを、しょうがなく私にあげてるんじゃって思えて……」


違うんだ。その日は、綾沙のl誕生日プレゼントを見に行ってたんだよっ


「それで気分を紛らわそうと仕事デートの予定増やしたら、

それを見られてフラれちゃうなんてっ。ホントバカだなぁ、私って」


よそよそしさを感じたのも、結局全部俺のせいだったんだ。


「本当に、いつも迷惑ばっかりかけて」


そう言う彼女は儚げで、こんな嘘かもしれないことを言われているのに、

なぜか信じてしまう、許してしまう自分がいた。


「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」


そういうと彼女はバックの中から小さな入れ物を出し、それだけ持ってトイレの方へと行った。


おそらく財布を置いていっているのだろうが、

これはとっても良いという償いなのか、はたまた信頼なのか、

自分にはわからなかった。


ふと店内を見回す。


ちょうど入ってきた仲睦まじいカップルは、

腕を組みながら和かに笑い合っていた。


自分は、あんな風になれていたのだろうか、

そして、誰とは言わないが、あんな風になれる時が来るのだろうか。







その2人の世界は、これでもかと輝いていた












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