第6話 猫というかボス
しばらくしてガラララっと進路指導室のドアが開く。
「おつかれさーん。顧問の福山 まりこです。今日は新入生の方も見にきたみたいやね。どうやった?」
なるほど、この方が鞠子先生か。舞台映えのする少し濃い目の化粧に、年配とは思えないすらっとした背筋。そして極めつけは優しそうながらクリっとした目。なんだか見た目はネコと人間のハーフを見ているようだ。
「はい、今日は新入生が体操服を持ってなかったので、基礎錬を見てもらって、エチュードに参加してもらいました。」
「エチュードな。ええやん。新入生の三人は楽しかったですか?」
この猫なで声、間違いない。美雪がモノマネしていたのは確実にまりこ先生だ。しかもクオリティ高過ぎ。
「はい、とても楽しかったので入部しようかと思います。」
昴。
中々思い切ったことをする男だなと楓は思った。文香と美雪が小さくガッツポーズをしている。
「入部届は担任の先生にもらえばよかったですよね。」
「ううん、私持ってるから後で渡すね。」
用意のいい顧問だ。気が変わらないうちに入部させたいのだろう。
「あなた達はどうするの?」
すっとぼけるようにあくまでも軽い口調で尋ねるまりこ先生。しかし、楓は気付く。この先生の眼。獲物を狙う狩りの眼だ。猫はネコでもこの有無をいわせない眼。ライオンの眼だ。だめだ。逃げられない。隣の詩織は全く気付いていないのかのほほんとしている。
「他のクラブとの掛け持ちはいいんでしょうか。」
「全然ええでー。」
詩織の質問に答えたのは芽衣だった。
「さっきも自己紹介したけど、ウチは生徒会もやってるし、校則としても、問題ないで。」
うーんと悩む詩織。
「まぁ、他のクラブも見ていき。入部届はどこでも使えるし渡しとくな。」
まりこ先生はそういって入部届を詩織に渡す。グイグイくる先生だと楓は思う。
「寺田さんはどうするの?」
楓の本心をいうと入りたくない。ってか入っても大丈夫なのかこの部活。猫なで声のライオンの顧問にぶっ飛んだ神経をしている部長。若干の厨二病同級生1名とアニメ好きのほんわか同級生1名。控えめにいって普通の人なら入部届は提出しないであろう。
しかし、楓は先程までのエチュードを思い出していた。今まであんな大きい声を出して喋ったことなんてあっただろうか。今まで自分が見つけられなかった一面をこの演劇部ではみつけることが出来るのではないだろうか?入学式のときには思わなかった不安と期待の入り交じった感情が楓の心の中を満たしていく。気がついたら時計の針が一直線になっていた。
「まぁ、明日も来てみたら?」
文香が楓に軽い口調で語りかける。
「別にすぐ決断することがいい結果に繋がるわけちゃうし、実際にやっていく中で理解に深まっていく。仮入部期間は2週間あるしまた来たかったら明日も見にきたらええよ。」
楓は驚いた。あのぶっ飛んだ神経の文香が、冷静に正論を投げてきた。てっきり無理やりにでも入部させると思ったのに。
「んじゃあええ時間やし、最後に挨拶しよっか。もし明日来るなら体操服と体育館シューズは持ってきてな。これで、本日の活動を終了します。福山先生、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
文香の号令に皆が続く。
「皆様、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
まりこ先生が校門まで皆を見送り、全員で駅に向かう。ちなみに昴は自転車通学だが、皆に合わせてついてきている。
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