第5話 エチュード!!

  後攻お題「進路相談」

今度は、机と椅子を三つずつセンター境にハの字で用意している。なんだかニュース番組のような配置である。向かって左側から美雪・楓・芽衣の並びだ。美雪と楓が先生役で芽衣が生徒役といったところなのだろう。

今度は文香の号令でスタートする。

「それじゃあいくよー。三・二・一 はい!」


「長瀬さーん、アナタ、進路調査表まだ提出してないでしょう?確かに悩む時期ではあるけどこれからどうするの?」

最後にニャンという語尾を付け加えて美雪は芽衣に語りかける。ちょっと癖のある猫なで声はきっと誰かのモノマネらしい。文香が笑いをこらえている。楓はというと突然のモノマネにどう反応するべきか美雪と芽衣の顔を右に左に見て泳がせている。芽衣はモノマネに慣れているのか笑うことなく返す。

「俺は……世界をもっと平和にしていきたいんです。」

「あら、そうなん?具体的に目標とかはあるんかなぁ。」

完全に置いてけぼりの楓である。美雪の質問に芽衣が机をバンっと叩き立ち上がる。

「そのために、俺は東京に出てロックミュージシャンを目指します1」

まさかの展開に美雪以外が全員ずっこける。楓も困惑の表情を浮かべる。

「そうなんかぁ。長瀬君はマジメな子やし信学とか公務員を考えると思ったんやけど……。うん、先生は応援するで。」

「え!?滝先生、ウソでしょ!?」

楓が叫んだ。思わず楓は周りを見回す。自分でも驚いているようだ。

「そうですか。寺田先生は反対ですか?」

「いや、あのそうではなくて。」

「私は長瀬君の意見を尊重してあげるべきかと。」

「確かにそうですが、流石にロックミュージシャンというのは、想像がつかないというか。」

「わかりました。ならば寺田先生。ちょっと表で話しようや。」

さっきまでの猫なで声から一転、ドスの効いた怖い人達顔負けの低い声で楓に絡む美雪。

つい楓もノッてしまう。

「お、おう。ゆーっくり話ししようやないの。

バンバンに言ったんで!」

演技か不慣れか、下手な関西弁である。文香達もついわらってしまう。

「先生達、やめて!私のために争わないで。」

一体芽衣はどう勘違いしてこの言葉を発したのか。楓と美雪が出ていこうとしたところで「終ー了ー!」

と二回手を叩いた後、文香の号令。こうなったらエチュードは収拾がつかない。ふと、我に返った役者三人は目の前で笑い転げてる文香に爆笑している昴・俯きながらも肩を震わせている詩織の姿がそこにあった。

「いやぁ、もうカオス過ぎてめっちゃ面白かったで。」

とは文香。昴も詩織も各々に感想をいいあい、楓は少しうれしそうである。そのとき、突然耳をつんざくように響き渡るBGM。校内放送だ。

「まもなく下校時刻になります……」

無機質な自動音声が早く帰れと言っている。

時計の針は一七時半を指していた。

「もう一回ずつやってもよかったけど下校時刻だからねー。」

「今日の活動は終了。全員着替えて。昴は舞台で待っといてな。絶対覗いたらアカンで!」

はーいっと気だるそうに返事をする昴。性別の違いとはいえ、一人置いてかれるのは不憫だ。中学時代からやってるし慣れてるのか。

着替えが終わり、顧問の先生に終了の挨拶に向かう一行。進路指導室に顧問は在籍しているらしい。部長の文香が入室し呼びにいっている。進路指導室。先程のエチュードでの美雪の演技を楓は思い出す。

「お待たせー。まりこ先生もうすぐ来はるから、ドアの前で待っとこうか。」

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