第4話 エチュード!

 楓の隣で昴がエチュードか。とボソッとつぶやく。どうやら何をするのか意味が分かるらしい。流石、経験者。

「部長!エチュードって何ですか?」

詩織が質問する。よくぞ聞いてくれましたといわんばかりに部長は胸を張って少し目を輝かせながら笑顔で答える。

「エチュードてのは、即興劇のこと。台詞とか台本とかなくてアドリブで芝居をするんよ。今日は人数おるから二チームに分かれて、それぞれお題を出し合いながら、その場のノリと勢いと若干の計算で一芝居三~五分くらいでやろうかな。」

先輩らしく分かりやすく標準語で話そうとするもイントネーションの端々は関西弁の抜けない文香。

「というわけで、一年生諸君も、せっかくなんで参加してもらおうと思います。」

昴以外の二人は少し驚く。初日からこの部長ぶっこんでくるなぁっと思った楓だったが、せっかく来た手前辞退するのも気が引ける。

三人一チームで決定したエチュード。先攻は文香・詩織・昴。後攻が美雪・芽衣・楓だ。




 先攻お題『授業中』

 舞台上には、机二個に椅子二脚。黒板に見立てたホワイトボードが置かれている。配役等簡単な打ち合わせをし、美雪の号令でエチュードはスタートする。

「三・二・一 ハイ!」

「えー、それでは教科書の三八ページを……。」

ホワイトボードの前に詩織、おそらく先生役であろう。センターの机に昴・右端の机に文香が座っている。生徒役だろう。たどたどしく先生役をやっている詩織。なるほど確かに授業中だと楓は思う。なんだ、芝居といってもこんな簡単なのでいいのかと少し安堵した楓だが、ここで事件は起こる。突然立ち上がり椅子の上に乗った昴。右手には銃のような構えで机の上に足をかけて辺りを見回す。

「俺はテロリストだ!今から俺がお前ら全員を人質にする。」

平穏な授業から一変、昴の一言でサスペンスドラマ染みてくる。詩織は手とアホ毛を上下に振りながら

「おお落ち着いてくください。な、平城山君。」

いやいや、お前が落ち着けよと思わず全員が心の中で突っ込む。可愛いけど。文香が立ち上がり昴を睨む。

「平城山、お前一体何が目的なんだ。急にどうした?」

「俺はな。最初っからこんな学校着たくなかったんだ!」

不意に核心を突かれて楓は内心ドキッとする。「俺はこの教室を乗っ取って学校を、そして世界を粛正していくのだぁ!」

「平城山、別にこんな強硬な手段を選ばなくたって世界を変える方法は必ずあるよ。」

と文香。

「うるせぇ。うるせえうるせえ!お前ら全員皆殺しになってもいいのか?」

銃口を詩織に向ける。詩織、自分の置かれてる状況を理解しあわあわしている。昴、詩織に向けて「バァン!」と言い放つ。咄嗟にしゃがみこむ詩織。

「次は、当てるぞ…。」

銃弾はフリだけなのでどこに向かったか見えないが、詩織には当たらずホワイトボードに当たったらしい。昴と詩織、両者睨みあいながら詩織はホワイトボードの裏から何かを取り出した仕草をした後、昴に向かって一言。

「バン!」

机の上に立っていた昴の胸を貫通したように見えた銃弾。昴は胸に手を当て、椅子に足をかけながら上手いことセンターに倒れこむ。詩織は、銃口にふうっと息を吹いて

「打たれる覚悟がある奴だけが打つ権利がある。またつまらぬものを撃ってしまった。」

美雪が二回手をたたく。

「エチュード終了!凄かったねー。お姉さん、びっくりだよ。」

芽衣も感情があまり表には出ていないものの、「中々やるじゃん。」と感想を述べた。楓はというと、何ともいい難い、例えるなら苦い薬を無理やり飲みこんでいる子どものような表情だった。

(これは、いよいよ大変なところに来てしまった感。それにしても授業中にテロリストって。)

「新入生に無茶ぶりかますなんて、文香も中々鬼だねぇ。」

美雪はさらっと文香に誰も気づかなかった衝撃的事実を言い放つ。

「ホント、びっくりしましたよ。自分も。まぁ何とか浅香さんが覚醒してくれて、オチも付いたんで良かったですけど。」

昴が胸ポケットから小さな紙切れを取り出して楓達に見せるように持っていた。

【ナラ山君、何か事件起こして♡】

なんという無茶ぶりだろう。

「いやー、経験者だし何かしら出来るかなーって思ったんよ。そしたらテロリストって。

平城山君、意外と厨二病?」

けらけらと笑いながら文香は昴の肩をバシバシ叩く。

「部長、痛いっす。」

「それにしても、詩織ちゃんも凄かったなぁ。あんな台詞どっから思いついたん?」

美雪の質問に詩織は少し俯きながら

「はい……。実は好きなアニメでキャラクターがいってた台詞なんです。せっかくなんで、一回くらい言ってみたかったんです。」

と語る詩織。好きなことを話せたからか少し目が輝いている。

なるほど、詩織はどうやらアニメ好きらしい。さて、続いては後攻だ。楓も覚悟を決めた。もうどうにでもなれ。半ば投げやりの気持ちだった。

 

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