第3話 はじめましてのご挨拶
「失礼しまーす。」
楓が部屋に入ると誰もいなかった。あれ?
おかしいな。と思いつつ中に入ると向かって右側のドアが開いている。舞台上につながっているようだ。その舞台上では部員と思われる人たちが円になって雑談をしている様子。楓が恐る恐る入ろうとしたそのとき、一人の部員と目が合った。眼鏡をかけたそのレンズがキラッと光る。その刹那、目にもとまらぬ速さで楓に近づいてくる。
「アナタ、新入生ね。ウチのクラブの見学かしら?」
パット見身長一五〇センチ程度、同級生か中学生かと見紛うことのある姿からは想像もつかない圧力というかオーラが凄い。眼鏡のレンズが反射してよりプレッシャーを感じる。手をワキワキさせながら少しずつ距離が詰められ、あと一歩で楓の背中が壁に当たるところで、眼鏡の部員の背後から、もう一人の部員によって取り押さえられる。
「ごめんなぁ。急に近付いてきて。この子、新入部員が三人もきたもんやからちょっとテンション上がり過ぎてはしゃいでもうてん。」
「いや、だってめっちゃ可愛いんやん。見事な黒髪ロングストレート美少女。そりゃウチかてテンション上がってまうわ。」
「あっ、皆は筋トレしといてなー。」
「ウチのこと無視かい!」
ジタバタしながらも必死の弁明をする眼鏡部員。楓は、これはもしやとんでもないところに来てしまったのではないのだろうかと思う。
「えー、コホン。皆様、ようこそ演劇部へ。私が幹事長……。他の学校でいう副部長の三年商業科の滝 美雪です。」
眼鏡部員を取り押さえていた部員はなんと部のナンバー2であった。
「そして、ウチがトリ商高校演劇部の部長。三年情報システム科の篠原 文香でーす!みんなー、拍手―!」
パチパチパチパチと一人拍手。もちろん部長のみである。
「私は、二年の長瀬 芽衣。演劇部と生徒会の掛け持ちやってまーす。」
三人とも体操服姿だが、三年生のハーフパンツは赤色・二年生は緑色だ。学年毎にカラーリングが変わるらしい。ちなみに一年は青色だ。
「すみません。一年も自己紹介した方がいいですか?」
紅一点ならぬ黒一点。制服姿の男子が文香に尋ねる。
せっかくだしやっちゃったらと軽口の文香。
「お疲れっす。自分は一年情報システム科の平城山 昴。一応中学から演劇やってるっす。」
黒一点は元々経験者らしい。そのためかどこかこのクラブの雰囲気に馴染んでいる。
「お、お疲れ様です。私は一年商業科の浅香 詩織です。よろしくお願いします。」
若干緊張しながらもその独特なアホ毛を上下に揺らし話す女の子はどこかフワフワっとしており、マスコットキャラ的な可愛さを持っている。
「はじめまして。一年グローバル科の寺田 楓です。演劇は未経験者ですが、よろしくお願いします。」
楓はぺこりと頭を下げてやっと皆の輪の中に入る。部長が立ち上がり全員を見回す。
「さて、全員の自己紹介が終わったところで、今日の活動内容を発表しよか。今日は皆で『エチュード』をやってみようかと思います!」
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