第15話 要件の充足
その男が身につけている戦闘服は、どこの国のものとも違っていた。そして男の顔は、どこかで会ったことがあると言われればそのような気がするし、ここで初めて会うのだと言われればそのような気もする。まるで、この惑星上の人間の顔貌を数値化し、その平均値を取ったような顔だ。誰でもあって、誰でもない。
「あなたは誰だ」
星はサブマシンガンを構えたまま言う。
「その答えを『私』は持たない。便宜的に『私』という呼称を使用しているが、『私』の自己認識は侵略者のそれとは異なるようだ。侵略者の言語資源には、その差異を説明する語彙はない」
星は銃を下ろして安全装置をかけ、暗視ゴーグルを外す。
「侵略者というのは、私たち人間のことだな。あなたはこの惑星に、人間がやってくる前から存在していた知性体か?」
「正確ではないが、侵略者の言語資源ではそのように表現するほかない」
「発送電衛星を管理しているのは、あなたか」
「そうだ」
あまりにあっさりとした言い方に拍子抜けて、星と顔を見合わせる。私もサブマシンガンを下ろし、暗視ゴーグルを外した。
「あなたに頼みがある」
星が切り出す。
「私たちは、この戦争を終わらせたい。力を貸してくれないか」
誰でもない男の顔に、初めて表情らしきものが現れる。男はほんの僅かに眉を動かした。
「アダムとイブはなぜそう要請する」
この惑星に、もう一度愛や美を取り戻したい。私は言う。それは最早、星だけの望みではなく、私の望みでもある。誰でもない男は、ゆっくりとうなずいた。
「承知した。しかしながら、アダムとイブの要請は、要件を充足していない」
「要件? 要件とは、何だ」
「それは」
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