第14話 未知の名前

 侵入者たちは、真っ直ぐに艦橋に向かってくる。敵国人同士である彼らがどういう経緯で行動を共にするようになったのかは、全くの不明だ。しかし、そんなことは重要ではない。結果が全てだ。これで要件は満たされる。この機会を逃せば、次はないかもしれない。そっと息をひそめ、待つ。



***



 艦橋にたどりつくと、そこから先はビークルが入れそうになかったので、徒歩で司令部に向かう。司令部への道筋も、ご丁寧に標識が教えてくれるので迷うことはなかった。

 念のためサブマシンガンを持つ。暗視ゴーグルを装着して、暗闇の中を進む。

 整然と延びる廊下を歩く。長く放棄されていたわりには、内部構造の保存状態は良かった。流石にドアのパワーアシストは作動しなかったが。


「ただ打ち捨てられていたにしては、保存状態が良すぎないか」


 星が言って、私も頷く。元は宇宙船であり、宇宙の過酷な環境に耐えられるよう作られた経緯を考えれば、相当強固に建造されたのだろうとは思うが。


 サブマシンガンの安全装置は解除したまま、警戒しつつ進むが、シンと静まり返った船内は、ネズミ1匹いなかった。私たちの足音だけが響く。

 巨大な船はひとつの街だった。各階はスロープで繋がっており、かつては移動のための乗り物があったのかもしれない。

 2時間ほどかかって、ようやく「司令部」のプレートがかかった部屋にたどり着いた。

 

 かつては固く閉ざされ厳重なセキュリティで守られていたであろうその部屋に通じるドアは、全て開いていた。招かれているのではないかという気さえする。


 司令部の中は、一度だけ見学した基地の司令室と似た雰囲気だった。大スクリーンに、整然と並んだコンソール。かつてはここで、この船を動かしていたのか。星も興味深そうにコンソールやスクリーンを眺めている。コンソールのスイッチを押してみるが、もちろん反応はない。


「アダムとイブか」


 突然の声に、飛び上がらんばかりに驚いて振り返り、銃を向ける。


「害意はない」


 その人物は両手の平をこちらに向け、頭の高さに手をあげる。

 突然天井灯が点灯される。暗視ゴーグルが可視光を感知して、瞬時にオフになる。


「アダムとイブとはなんだ」


 星が問いかける。


「知らないのか。侵略者は貧しくなった」


 それは、どこの国のものでもない軍服を着た人間だった。

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