第13話 勝負の行方

 かつて、革命家と呼ばれた男がいた。

 革命家は泥沼化しつつある戦争を憂い、それを終わらせたいと心から願っていた。自らの損得などは関係なく、また、危険も厭わずに男は世の中に働きかけた。分裂した国をまたひとつにまとめようと、男は同志を集め、世の中に訴え、行動を起こした。「私」は男に興味を持ち、観察した。侵略者のある特定の者に興味を持つなど初めてだった。「私」は侵略者がもたらした言語資源を利用して、あらゆる情報ネットワークに侵入し、男を追い続け、ついに男に接触した。「私」は、侵略者の使うコンピュータ群と非常に相性が良かった。

 「私」は男に問うた。戦争を終わらせることができると信じているかと。男は真っ直ぐな目をして、「私」に言った。勿論。この戦争は必ず終わる、と。

 男は「私」にある頼みをし、「私」は了承した。

 これはゲームなのかと言うと、男は驚いた顔をして、そして言った。


「ゲーム…そうだな。あるいは君と俺の賭けと言うべきか。俺は、愛を信じている。それは神も奪うことができないものだ。神にも、できないことがあるんだよ。俺は、それに賭けてると、つまりはそういうことだ」


 「私」は神なる存在を認識しない。神の概念は侵略者と共に「私」にもたらされ、「私」を大いに混乱させた。

 神とは何か。

 「私」の問いに男は腕を組んで眉間に皺を寄せた。


「この世の創造主とか、全知全能の存在とか、言い方は色々だが…それは、人類の究極の問いの一つだ。まだ結論は出ていない」


 それでは愛とは何か。それはしばしば侵略者によって語られるにも関わらず、その実態は未だ不明だ。


「それも難しいな。なんだろう。それはどちらかと言うと哲学の領域なわけだが。…俺は、この世の存在全てを、自身と同等に価値あるものだと思わせる精神作用だと思っている。人間にはそのような作用が備わっていることは間違いない」


 この男はつまり、人間にはそのような精神作用があるために、いずれ銃を向けている相手も自分と同等の価値があることを見いだし、銃を下ろすだろうと考えているのだ。



 男との対話は興味深く、有意義だった。「私」はその後もしばしば男と対話した。対面で、文字情報で、仮想空間で。男はいつも注意深く言葉を選び、男の考えを「私」に伝えた。「私」は満足だった。

 男はその理想を実現する少し前、信頼していた仲間に裏切られて死んだ。



 今のところ、「私」は男との賭けに勝っている。戦争は終わっていない。侵略者は貧しくなり、最早収穫できる言語資源はなくなった。

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