第12話 人工の暗闇
近づくと、船の大きさは圧倒的だった。こんなにも巨大な人工物は見たことがない。最早この惑星に、これほどの巨大な建造物を造る技術は残っていないだろう。知識としては保存されているのかもしれないが、それを復活させるのには気の遠くなるような時間と労力が必要だ。いや、もしかしたら、知識の復活など不可能なのではと思う。
私たちが進入地点に選んだのは、どうやら格納庫のようだった。巨大な開口部からは、かつてはこれに似つかわしい巨大な重機等が出入りしていたのだろうか。もしかしたら、この地に降り立った開拓者もここから出てきたのかもしれない。船は半ば砂に埋もれていたが、内部への進入路は塞がったりはしていなかった。ここが塞がっていたりロックされていたらどうする気だったのかと星に問うと、星は笑って「なんとかなると思っていた。まあ、入れなければ出直すだけだ」と言った。工具を使って扉を破壊したりする必要はなかったのは、少々意外だった。それを見越して、ハンドタイプの工具も用意していたのだが。
要塞のような船の内部へは、いとも容易くビークルで進入でき、少々拍子抜けした。この巨大な建造物を徒歩で探索するのは無謀だろう。迷ったら終わりだ。もしかしたら、この巨大な廃墟に入っていって出てこなかった者が既にいるのでは、という気がしてくる。ビークルの走行記録システムをオン、走行経路及び内部構造を記録させる。心配をよそにしばらくは一本道が続いた。
内部はもちろん照明などはなく、暗い。夜の暗さとは別種の闇が広がる。人工的な闇だ。星一つ見えない。もちろん月も。人間の原始的な恐怖を掻き立てる種類の闇。ヘッドライトをハイビームにして走る。並走していた星のビークルが停まる。私も同じものに気づいてビークルを停止させた。前方に何か光を反射するものがある。
ここは989街区西
金属のプレートが天井からぶら下がっていた。緑の地に白の文字でそう記されている。
2人でほぼ同時にビークルを降りた。
その先にも標識があり、それにはご丁寧に艦橋方面・緑地街区・工場街区などと行き先が示されている。
まずは艦橋に行ってみたいという星に同意して、再びビークルを発進させた。この船の中枢はここだ、ということを大っぴらに開示していてもクーデターも起きず、開拓者たちはこの惑星にたどり着いたというわけだ。彼らは本気で、理想郷を作れると信じていたのかもしれない。これだけの偉業を成し遂げた自分たちならば、と。
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