第10話 言葉の内実
星の唇は柔らかくて温かで、一瞬で私を虜にする。ずっと触れていたい。気がつくと彼女の体に腕を回して引き寄せて、唇を貪っていた。そのことにようやく自分で気づいて顔を離すと、星がその黒目がちの瞳でじっと私を見ていた。今度は、星の方から顔を寄せてきて、また唇同士が触れ合う。星から私へ。私から星へ。唇を押し付けながら、僅かな唇の隙間を舌でなぞる。星がふぅっと大きく息を吐いて体をのけぞらせる。唇と唇が、舌と舌が触れ合う。体の変化を感じる。苦しいほどに。
「夕陽…私を、見てもらえないか。この、奇妙な体を、どう思うか、教えてほしい」
星は私の目を真っ直ぐに見たまま言う。私は声を発することができず、ただ頷く。
星はおもむろに上衣を脱ぎ落とした。下に着ている肌着を取ると、そのさらに下、胸のあたりに幅の広い布を巻き付けている。
携帯ストーブの明かりに浮かび上がる、細くて繊細な、尖った肩。本当は見てはならないものなのではと思いつつ、最早目をそらせることができない。星が胸に巻いた布を外していく。シュル、と布の擦れ合う音がやけに大きく響いた。
現れたのは、2つの丸い膨らみ。人体にこんなな円弧を描く部分があるのかと驚愕する。その頂にある薄く色づいた部分とささやかな乳頭は、私と似ているようで全く異なっている。
「夕陽とは、全然違うと思うんだ。これを、どう…思う?」
星は俯いたまま、目だけを私の方に向けた。
こんなに完璧な、美しいものは初めて見た。そう言った私の声は震えていた。
「本当に?」
私は頷く。星は顔を歪めたかと思うと、私の胸に飛び込んできた。私の背中にしっかりと腕を回し、顔を胸に押しつける。
「ありがとう。…ありがとう、夕陽」
星の声も震えていた。私はそっと星の背中に手を触れる。その、冷たくて滑らかな背中。今まで触れたことがあるどんなものとも異なっている。星が顔をあげる。黒い瞳は涙で濡れていた。唇が触れ合う。
違和感の正体に気づいて、私は戦闘服の上衣を脱いだ。肌着を脱ぎ捨てて上半身裸になり、星を引き寄せる。肌が密着する。冷たくて柔らかで滑らかな肌。星が目を閉じて大きなため息をつき、顎を上げる。その唇を塞ぎ、舌と舌を触れ合わせる。欲しい。この女が。他のどの存在とも区別されたこの女を、私のものにしたい。
ようやく答えがわかった、と私は星に言う。星は先程の余韻か、焦点の合っていないような目をして私を見た。
「あなたを愛している。これが、愛だ」
言葉を発した自分自身で驚く。こんなにも思考を正確に表現できたという感覚は、初めてだった。空虚な言葉に、初めて内実が与えられた。
星の目が見開かれ、その両目から涙が零れ落ちた。
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