第2話
二年生になった。
在学中にチェス部を作るには、今年中に同好会の人数を五人以上にしなければならない。
私と
なんとしても新入生の勧誘を成功させる。
気合いを入れてビラを作った。校内の掲示板の隅っこに貼らせてもらった。正規の部活動ではないので肩身が狭い。
かけ持ちでもいいからと、顔を出さなくてもいいからと、一枚一枚手作りのビラを新入生に手渡した。とにかく人数を増やすことだけを考えた。
けれど、誰一人として、チェス同好会に入りたいという者はいなかった。
初心者に対しての教え方としては優しくなかったと思う。
幼なじみの
それでも、一年間、
「ああ、また負けた」
「だって、
一学期が終わる頃には、守とのチェスがいい勝負になってきた。
「なるほど、そうか。
「そう。チェックがかかって主導権を握れたからね。それで余裕ができた」
私と
よかったら近くで見てください。
もしよかったらちょっとやってみませんか?
私は精いっぱいの笑顔を見せて声をかけた。
けれど、せっかく興味を持ってくれても、ルールを説明すると表情が曇った。
そして次の日には来なくなった。
二学期が始まる頃、
積極的に攻めていく私のスタイルも変わらなかった。けれど、私の攻めは試合を重ねるにつれ、いなされるようになってきた。無謀な攻めは咎められて、強烈なカウンターが返ってきた。
「やった! 初めて
信じられなかった。
私の趣味につき合ってくれてありがとうって、感謝の気持ちを伝えるつもりでいた。
それなのに、私は何も言えなかった。
ただ、盤面を見つめていた。
約十年。ずっとチェスをしてきたのに。たった一年半で追いつかれた。
悔しかった。嫉妬もした。
なんでこんなにも早く、強くなれるのか。
私と
そんなわけない。
そんなこと、あってたまるか。
少しずつ、
私の苦手なエンドゲームに持ち込まれては、負けることが確定した試合を、諦めきれずに手を進めた。
二学期が終わる頃になると、私は
「来年は、どうするの? 新入生の勧誘がうまくいかなかったら、同好会は続かないんだよね」
私と
「僕と
「まだわからないでしょ! 来年こそメンバーが増えるかもしれないじゃない!」
「
「なにそれ。自分の進路をどうしようと私の勝手でしょ。
最低だ。
うまくいかなくて、いらいらして、落ち込んで、そんな自分にまたいらいらして。
私は、最低だ。
それでも、
いつもと変わらない顔で、チェスをした。
私も、
でも、私の成績では、厳しそうだった。
別の大学に行くか、それとも就職するか。
私は自分の進路をまだ決められずにいた。
三学期のあいだ、私は
ただの一度も、勝てなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます