魔女
黒辻澪
黒辻澪。
大きな神社を持つ宮司の長女として京都の地に生れ落ちる。
幼いことから
成績は常にトップ。運動では男子に勝り、そして道を歩けば誰もが振り向くほどの美貌の持ち主。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の三拍子揃った完璧女として天才の名を欲しいままにしてきた。
理想的な学生生活を送った彼女は東京の一流大学を上位成績で卒業後、日本行政の中枢にして最高権力機関、財務省に就職し官僚となる。桁違いの頭のキレと五カ国語を操る語学力を買われ若くして主戦力の一員となり瞬く間に成長、歳二十四にして未来の大臣候補とまで噂される存在となる。
一切の
その何もかも順風満帆に思えた彼女の道にある日、影が落ちる。
お気に入りの店でランチを終え職場に戻ろうと歩道を歩いていた際、見知らぬ男子学生に突然突き飛ばされた。
どうやら落下する鉄骨から自分を守ってくれたようだが、その鉄骨は不運にも彼女の右腕右足を潰した。
命拾いした彼女だったがその日を境に完璧な人生は暗転する。
骨の髄まで粉砕した彼女の手足は完治することが無く、
当然今まで通りの生活はまま成らなくなり職場は退職、友人は去ってゆき、将来を誓い合った恋人にも逃げられた。
東京での生活を諦め京都の実家に帰った彼女を待っていたのは地獄だった。
母からはまるで壊れた人形を見るかのような眼で見られ、父は邪魔者扱い、二人の妹には無視された。
「お前には期待していたのに。こんなガラクタみたいになって帰って来るなんて」
家に帰った翌日に両親から言われた一言がずっと消えなかった。
なんで?
なんでみんな、こんなに冷たくするの?
私は何も悪くないじゃない。
彼女の訴えに足を止める人間は一人もいなかった。
絶望した彼女はあの日起きたもう一つの不可解な出来事に思いを馳せた。
あの少年。
自らを犠牲に鉄骨から守ってくれたあの男子学生が事故現場から消えていたのだ。
事故現場にそのような被害者はいなかった、と病院で警察から説明を受けた時には頭が混乱してなにも言えなかった。
現場に少年の物らしき
おまけに唯一その現場を目撃していたビル工事の作業者も周囲に少年らしき人影は見当たらなかったと答えたらしい。
しかし、いくら証拠が無くとも彼女の眼は確かに見たのだ。
背中を押されたのだ。と必死に訴え続けた彼女に、警察は冷たくこう言った。
「あまりのショックに脳がダメージを受けているのでしょう。精神科の受診を薦めます」
頭がおかしくなっていると、家族の前で吐き捨てられた。
協力してくれる人間は誰もいなくなった。
だが彼女は一人になっても自分の尊厳と信憑性を取り戻すために諦めなかった。
様々なメディアを漁り、事件近日に行方不明になった男子高校生を探し当てたのだ。公開された顔写真はあの時の学生と瓜二つ、名前は仰木大和というらしい。
杖を突いて学生が通っていた高校へ赴き、心当たりがあると言って学生の家の住所を聞き出した。
家を訪れると確かにあの日から帰っていないという。
他にも学生に纏わることを調べ上げ、調べ上げ尽くしたが結局なぜ彼が消えたのかは分からなかった。
なんで?
なんであなたはどこにもいないの?
「――全部あなたの所為なのに――」
澪は狂っていた。
人も居場所も、何もかも失い絶望に浸る中で、彼女の脳は標的を変えた。
あの時、死んでいればこんな辛い思いをせずに済んだ。
あの時、もっと早く背中を押してくれていればこんな辛い思いをせずに済んだ。
あの時、あの男が。
あの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男があの男が。
「あの男さえいなければこんな辛い思いをしなくて済んだのよぉ!!!!!!」
ガラクタの身体をバタつかせて、澪は発狂した。
そして彼女は高層ビルの屋上から身を投げた。
頭が割れそうなほどの憎悪を抱えたまま、冷たいコンクリートに叩き付けられた。
そして気付けば見たことも無い植物が生い茂る森の中で倒れていた。
彼女はそれからすぐに自分が異世界に転生したことを知り、そして転生のメカニズムを知った瞬間、閃いた。
――あの男、消えた仰木大和はこの世界に来ている――と。
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