漆黒の解放者

玉座の間にて

 大きな格子の窓から月夜を望む。

 巨大なシャンデリアと青色のカーペットが敷き詰められた豪華絢爛という他ない玉座の間に、一人の女騎士が跪いていた。


 眼の前には黄金の玉座に腰を降ろす初老の男。白髪の上には数えられないほどの宝石が埋め込まれた冠が乗っかっている。


 「ほう。それで明日、そやつとの決闘を行うと」


 唸るように初老、ガルディアの国王が言う。


 「はい。どちらに非があるのか、国王様の前で証明して見せます。どうかご観覧を」

 深く息を吐いた国王は、眼を落とす文書を置いて実の娘を見下ろした。


 「お前の好きにするがいい。どちらが勝っても負けても、どうでも良いことだがな」


 赤髪がピクリと揺れる。

 エルレは面を上げた。


 「……それはどういうことでしょう、お父様」


 「相手が何処の馬の骨かは知らんが、貴様がそやつを制したところで貴様の罪が消えることは無いと言っているのだ。弱く愚かな我が娘よ。国王の実子であり騎士長を名乗る者が忠義を尽くす騎士を戦地に置き去りにした挙句、無傷で逃げ帰るとは。ワシの顔は今、貴様に塗られた泥で覆われているぞ」


 目を見開く娘を睨み付けた国王は、唾を飛ばして吐き捨てた。


 「この王族の恥晒しめが」


 言葉が詰まり、口を震わせるエルレの背後からクスクスと笑う声が聞こえる。

 王族に名を連ねる第二以下の王女達だ。

 第一王女であるエルレの失墜に歓喜極まり、笑いを押さえられないのだろう。


 「…………!!」


 音が鳴るほど強く歯を食いしばった彼女に、国王は前屈みになって告げた。


 「……しかし腐っても貴様は第一王女。少しばかりの恩赦は与えてやろう」


 「お、お父様――!!」


 「明日の決闘、貴様が勝てば王族として城に居座り続けることだけは許してやろう。身を守る王血の聖印も剥がさずそのままにしてやる」


 日が指したのも束の間、直ぐに絶望に沈んだ。今の言葉が何を意味するのか。

 エルレは父に訴える。


 「わ、私の王位継承権は、第一王女の座はどうなるのです!?」


 「……王位継承権だと?」


 顔強張らせた国王。玉座から立ち上がると、跪くエルレの腹に蹴りを入れた。


 「ぐはぁ!!」


 その顔面は怒りに赤らみ、歪んでいた。


 「今の貴様に王位継承権などあるものかぁ!! 騎士を見殺しにする汚らしい雌には騎士長の座も、いや一介の騎士を名乗ることさえおこがましい!! どこぞの男一人に勝って見せたらワシが貴様を見直すとでも本気で思っていたのか!? 国王を、いや父親を舐めるのをいい加減にせい!!」


 激昂する国王を使いたちが止めにかかる。

 エルレは涙目を浮かべて許しを乞うが、そこにいつもの優しい父親はいなかった。


 「ふぅ……ふぅ……。貴様など……もう私の子ではない……! この場から立ち去れ!! 二度とこの神聖な間に足を踏み入れるで無いぞ!! 分かったな!!」

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