二人の女騎士長
多少罪悪感を感じながらも、仰木は仮面たちをその場に残し再び王国への道を歩き出していた。
風遊ぶ丘の途中。
変わらぬ陽気の天候は心地よく、脇の崖から望む景色は中々だった。
「道草食っちまったが、半分くらいは来たはずだ……」
少し疲れ気味の彼。
その時、上り切った丘の先から大声が届いた。
「ああ!! そちらにおられましたか!!」
顔を向けた先にいたのは、馬に跨り色鮮やかな西洋風の鎧を着こんだ兜の男だった。仰木が纏う浅葱色の羽織と似た色が特徴的な装備である。
忙しなく馬を走らせて近寄った男は、眼をパチパチとさせる彼に手を差し出した。
「探しましたぞ軍師殿!! 当目的地はこの先! 騎士長様もお持ちです!!」
「ささっ!」と促され、反射的に手を握ってしまった。すると、鎧男の腕力だけで身体が軽々と持ち上げられ馬に跨ってしまう。
「え、ちょ、待った、なんか勘違いを――」
「全速力でお届けします!! しっかり掴まっていて下され!!」
ヒヒンと鳴いた馬は男の声を皮切りに走り出した。
乗馬の経験など皆無の仰木。そのスピードに圧倒され、ただ悲鳴を上げることしかできないまま連れ去られた。
疲労困憊の彼を迎えたのは騎士の一団だった。
木々が生い茂る丘の頂上に張られた陣、掲げられた金刺繍の旗、十数人の屈強な鎧たち。
その全てが仰木と同じ浅葱色に染まっている。
「騎士長様!! 軍師殿が到着なされましたぞ!!」
騎士はフラフラの仰木に肩を貸して声を上げる。
すると周りの騎士たちを押し退け、より煌びやかな甲冑に身を包んだ二人の女騎士が姿を現した。
「遅いわよこののろま軍師っ!! どこで油売ってたわけっ!?」
真っ赤な髪を長く伸ばし、ミニスカートを揺らす若い女騎士。溌剌とした印象与える彼女の瞳は怒りに燃え、睨みを利かせている。胸元に瞬くひし形の紋様は神々しさを滲ませる。
「私たちを待たせるなんて、自分の立場を弁えて行動するべきだ。使えない」
薄紫色髪をポニーテールで結い、豊満な胸を露出させた女騎士。サドスティックさを孕んだ冷徹な視線は見る者を圧倒する。
二人の頭にはティアラを模した銀の髪飾りが光り、腰にもこれまた豪華な武具が引っ掛かっている。
周りの騎士と比べ、明らかに雰囲気の違う二人に仰木の頭も冴えてしまった。
「申し訳ありませんでした騎士長様。の一言も言えないわけ!? あんた、命令を聞けないどころか礼儀も知らない蛆虫なのかしら!?」
赤髪の騎士が乱暴に仰木の首根っこを掴み、睨んだ顔面に近付ける。紅蓮色の瞳はまるで炎のようである。
「どうなのって聞いてんの!! アホ面してないでなんか言ったら!?」
「え、いや、俺は――!」
とんでもない勘違いが発生していることは間違いない。面倒なことになる前に弁解を試みたが、それはあまりにも静かでそして威圧的な言葉に遮られる。
「次に貴様の口から出る言葉が謝罪でなかったら、喉に穴が空くぞ」
眼を向けると薄紫髪の女騎士が矢をくるくると弄んでいた。切れ長の眼元に埋め込まれた瞳は得物を狩る鷹を思わせる。
「答えは決まって? 蛆虫軍師さん?」
彼女は本気だ、と本能が告げている。この場はとにかく謝っておいた方が良さそうだ。
「……す、すまなかった。気を付けるよ」
苦笑いを浮かべた仰木。
笑顔になった赤髪に一瞬心を緩ませたのも束の間、腹を膝蹴りが穿った。
「ぐはぁ!?!?」
「城に戻ったら書庫に寄りなさい。【猿でも分かる敬語の使い方】って本をそのアホ面振って探し回るといいわ。まったく、簡単な任務だからって低級軍師なんて連れてくるんじゃなかった」
地に伏せた彼を尻目に、赤髪は騎士たちに号令を掛けた。
「これよりこの辺りに巣食う盗賊団を一掃するわ!! あんたたち!! 一人でも逃がしたら全員国王様に言い付けるからね!!」
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