第3話 菊花開(きくのはなひらく)

 連休明けの朝。いつもよりちょっとだけ早く学校に来て、ちょっとだけドキドキしながら机の中を見た。チョコは無くなっていて、新しい付箋が貼ってあった。


『はつみさん

 チョコ、ありがとうございます。私は、マッシュルームよりはバンブー派なので、うれしかったです。食べたら元気が出ました。

 でも、このようなお気づかいはしていただかなくてだいじょうぶですよ。

 ともあれ、ありがとうございました。   ゆい』


 付箋を剥がして、手帳に貼る。そして鞄から付箋の塊を出し、ペンを握った。


        ***


「あ、また」

「何? ゆいさん?」

「…なんでもない」


 授業開始、1分前。仕事が長引いたから、必死に走ってギリギリセーフ。弾む息で机の中を確認すると、そこには新しい付箋があった。


『ゆいさん

 私もバンブー派です! マッシュルームと迷ったので、気に入っていただけたならよかったです。安いものなのでお気になさらず。元気が出てよかったです^^。お腹が空いていると、勉強に身が入らなかったりしますよね。   はつみ』


 確かに、と思う。1限目の後、給食を食べるまで、結構つらい。でも、食べた後は睡魔との戦いで、これまた結構つらい。勉強したい一心でがんばるけれど、たまに、この戦いに負けてしまうこともある―。


『はつみさん

 そうですね、仕事が長びいてぎりぎりに学校に来たときなどは空腹がつらいです。でも、お腹がいっぱいだと、こんどは眠気が。困ったものです。   ゆい』


 昼間の学校に通える「はつみ」さんは、仕事がハードで授業中眠いとか、ないんだろうな、と思う。もしも自分も昼間の生徒だったら、この教室で一緒におしゃべりしたりして過ごしただろうか。


「いや、それはないな」

「あ? なにが?」

 クラスメイトのりょうさんが、独り言を聞きつけて尋ねてきた。

「いや、自分がもし、昼間の生徒だったらって考えてた」

「ああ、それは無いね。…昼間の人、きっと苦労知らず。夜の生徒を、貧乏人とかバカにしてるかもしれない」

「…そんなことは無いと思うけど」

「なんでわかるかな?」

「なんとなく?」

 ちょっと沈黙。それから、うん、と、りょうさんが頷いた。

「そうだね、決めつけ、よくないね。こういう立場の人はこう、って、ひとまとめにしちゃいけないね」

 やりがちだけど、ちょっとおどけて肩を竦める。それも確かにそう、と思った。

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