第4話滑り堕ちる感覚(選択)*改訂前版

 ファミレスを出た後、僕は結局五谷に着いていってしまった。五谷への恐怖より興味が勝ってしまった。僕の中のどこかに記者魂が眠っていたのだろうか。

 彼の家は橋館のディープな場所にあった。橋館市の主な商業施設から離れていて、時間が通り過ぎてしまったような場所だ。俺の家も会社も橋館市から近いのにこんな所があるなんて知らなかった。

 彼は小さめの一軒家を借りて一人暮らししていた。この辺りはなんというか、アメリカの郊外の家のような絶妙に寂しい距離感があった。まあアメリカなんて行ったこと無いけど。

 

 「お客さん来るの初めてなんですよ。」

そんなこと言われてもあっそとしか思わないな。

 「あ、リビングのソファに座っててください。コーヒー淹れますんで。」

 「お邪魔します。」

 今更そんな親切にされると気味が悪い。何か企んでいるように思えてかえって怖くなる。

 「東さん、ブラックで良いですよね。」

「ああ。」

しばらくして、五谷がコーヒーカップを2つ手に持ってこちらに来る。俺の目の前にカップを置くと、彼は話し始めた。

 「3人目ですけど、」

「今車庫の中にありますよ。」

「見る?」

「遠慮しとく。」

「明日さんはさ、俺をどうしたい?」

「どうしたいって?」

「いやだから、オレのこと記事にしたい?」

「そりゃまあ。そのために来たんだから。」

「 東さんは、今大人気のオレを記事に書けば話題になれるじゃん。」

「オレとしては別に、有名になるのも悪くないんだよね。」

 何を話しているんだ。人気?有名?価値観が違いすぎて、エイリアンのように見える。

 「でも、やれるとこまでやってみたいんだよね。」

 部活動みたいに気軽に意気込みを語る五谷。俺と彼とでは、殺人の定義や感覚が違い過ぎるのだろうか。

 でも僕は予想外にクールで無感情だった。今日一日に詰め込まれた記憶や衝撃が、俺を緩やかに蝕んで麻痺させている。頭の芯まで冷やされて、余計なものが削ぎ落とされている。いつになく頭の回転が速い。

 「で、俺は結局どうすればいいんだ?」

「明日までさんには、俺のこと密着取材してほしいんだよ。」

何を言い出すのかと思えば、自分を密着取材してほしいなんて、どこの芸能人だ。が、しかし、今日の俺はやはりどこかおかしくて、それを承諾してしまったのだ。

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殺人演技 ミナワライ @33031404

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