第3話犯人*改訂前版
あの日、五谷君が俺に見せた動画をまだ覚えている。嫌に鮮明で褪せることがない。あんなもの、忘れたくてもこの先一生忘れるはずがない。俺は人が殺されるってことをあの映像で知ったのだから。
薄暗い部屋の中だった。誰かの声がした。女性の声だ。カメラは女性を撮り、そちらに近づきだした。女性は猿ぐつわをさせられていて、手足が座らされている椅子に縛り付けてある。顔は恐怖に染まっていて、目は助けを訴えている。
「むん〜!むん〜っ!」
いくら声をあげようとしてもどこにも届かない。
カメラは撫で回すように女性を撮って悦に入っているようだ。
撮影者がポケットから何かを取り出した。それを見て、女性の顔色はあからさまに尚一層悪くなった。
銃だ。誰か見ても分かる。人を撃つものだ。そうして人を殺すものだ。その銃を聞く女性の胸に当てた。
「むっ!んんん〜!」
必死に助けを求め、同情を乞うのもまったく無駄だった。
「ぱんっ」
引き金が引かれ、小さな破裂音だけが響く。それだけで彼女の胸には穴が空いた。それでおしまいだ。彼女はもうさっきのように悲鳴をあけたり震えもしない。
撮影者はしばらくその死体ズームアップしたり戻したりして遊んでいた。それが止んだと思ったら撮影者が歩き出した。そしてカメラが切れる直前、一瞬カメラが内カメラに切り替わった。
「っふゅ?」
言葉が出なかった。驚きで開いた口から、空気が漏れ出てカスカスの口笛のような音が出た。絶句するほど驚いたのは、カメラに映った男と、今俺に動画を見せている男が同じ顔をしていたからだ。
目を細め、30度ほど吊り上がった口。誰よりも楽しげかつ機械的な笑み。
「あははっ、ビビったでしょ?」
「おい、これ。どういうことだよ?五谷君!」
「3人目さ、東さん。秘蔵映像だよ。」
「こんな、っっ、上田じゃ済まされないぞ。」
「だから最初に言ったじゃん。」
「連続殺人犯の情報あげるって。」
「犯人はぁ、オレっ!」
薄々気づいてた。この動画の最初あたりから。こんな動画持ってるの犯人ぐらいだって。でも頭の隅に追いやって考えないようにしてた。
世界一気持ち悪い笑みだよ、ちくしょう。
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