第2話チクリ屋*改訂前版

*幸崎くじらを力はくじらさんという呼び方をしていましたが、この話から幸崎さんに変えました。後ほど他の話も修正します。

 


 幸崎さんとの地獄のドライブガッカリ終わったと思ったら、今度は駅前のファミレスだ。幸崎さんは相変わらず無言で、話しかけられる雰囲気じゃない。何しに来たんですか、とは聞けなかった。

 「そろそろ注文しますか。」

 恐る恐る尋ねる。

 「ああ。」

 「何にしますか?」

「お前が俺の分も決めていい。」

はあ、なんなんだまったく。自分が連れてきたくせに。さっきからずっと窓の外眺めてるだけだし。

 僕が注文ボタンを押そうとしたその時、幸崎さんがビクッと体が揺れた。窓の外に何か見つけたのだろうか。その視線を辿ると1人の少年にぶつかった。彼は横断歩道を渡ってこちらに向かってくる。ファミレスに、入り店内の様子を窺っていると、

 「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

「えーと、一名様です。」

「あっ、そこの、窓側の今男2人が座ってる席で。」

彼が僕たちのことを指さしたので驚いた。彼は真っ直ぐ僕たちの座る席へ歩いてくる。

 「遅いぞ。」

幸崎さんがイライラしながら彼に向かって話しかける。

 「ゴメンゴメン、昼寝してたらちょっと遅れた。」

「ちょっとじゃないだろ。今何時だが分かるかお前?」

「2時50分。」

「俺が来いって言ったのは?」

「2時半。」

 赤いキャップを被って中性的な顔立ちの彼。当たり前のように僕達の向かい側の席に座った。

 「注文は?」

「ああ、まだだった。」

 注文ボタンを押すとすぐに店員が来た。

 「ご注文は?」

「プレミアムドリンクバー3つと山盛りポテト。」

こちらには何も聞かずに彼は注文を終えてしまった。それに戸惑っていると何を勘違いしたのか、

 「大丈夫。くじらちゃんが払ってくれるから。」

別にそういうことじゃないんだが。

 


 山盛りポテトが来た。

 「お熱いので、お気をつけてお召し上がりください。」

 なんだか「お」ばっかだな、なんて思っていると幸崎さんが話し始めた。

 「お前を読んだのは、まあ薄々気づいているだろうが」

「まさか、アレ?すごいね、そんな大ごとなの?」

「ああ、猫の手も借りたいぐらいな。」

席の横に置いてあったビジネスバッグから何やら捜査資料のようなものをを取り出して...

って!捜査資料?そんなもの一般人に見せちゃだめだろ。

 「幸崎さん、それって。ていうか誰なんですかこの人?」

「力、飲み物持ってこい。」

無理矢理、会話は終わらせられてしまった。その後も話すタイミングが無くて、そのまま彼は帰ってしまった。

 僕たちもファミレスを出て、橋舘署に帰った。車内で彼について幸崎さんに尋ねようとしたけれど、言葉にする前に幸崎さんが話し始めた。

 「あいつは、巨波こなみというんだが、あれはチクリ屋だ。」

「捜査特別報奨金制度って知ってるか?」

「いえ。」

「事件を解決に導くような有用な情報を提供した者に報奨金を支払うっていう制度だ。」

「チクリ屋は、その報奨金を貰って生計立てている奴らのことだ。」

 「あいつらは自ら事件について捜査して、まあ探偵ごっこみたいなもんだな。巨波の場合、俺が依頼して捜査させて、その分の報酬を支払っている。」

「捜査って何をするんですか?」

「巨波には捜査資料をやってる。あいつは優秀だから、犯人の目星ぐらい自分で付ける。

 「あと、証拠品を見つける為に家宅捜索させる。もちろん無断でな。」

「それぐらいだな、あいつの仕事は。」

「でも、それって」

「ああ、違法だ。だがまあ、それくらい犯人が捕まるのならいいだろう。」

「今回の、胸部穴あき連続殺人事件は巨波でも荷が重いだろうがな。」

途中から幸崎さんの話が耳に入らなくなった。除夜の鐘で殴打されたような衝撃だった。

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