最強闘士はなぜ最強なのか。

天明福太郎

第1話 最強なる理由

「ふぅーーーーーーー」


 息を深く細く吐く。

 呼吸というのは戦闘においてもっとも大切だという持論を持っている。

 前に一度、呼吸が不十分で脳みそや動かしたい部位が十分に動かなくなり、生死の境を歩んで以来、呼吸だけは何があろうと大切にするようにしていた。


「よし。」


 呼吸を整えると今度は自身の身体の不調を探る。

 右上腕部に目立つ裂傷はあるが、深くはない。

 他の部分は幸いにも大きな傷はない。

 所々にかすり傷はあるがそれも支障のない範囲だ。

 人体の急所といわれるところには傷はない。

 頭に打撃も貰っていない。

 昔、巨人族ギガントとやりあった時、あご先に軽い打撃を食らっただけで倒した経験から特に頭の怪我には気を付けている。


「ルーチンワーク。ルーチンワーク。」


 自分に言い聞かすように呟く。

 最も大切なことはいつも通りの動きをすること。いつも通りのにすれば今日も勝つ事が出来る。

 何十年も同じことを繰り返すことで生き残ってきたと自分に言い聞かす。


「史上最強の生物は誰だ!!第3824回最強生物決定戦!!!準決勝!!!!優勝候補はこいつだ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 何度も聞きなれたアナウンスが聞こえる。同時に目の前の扉が開きゆっくりと開く。


「ボーっとしてるな!」

「殺しちまえ!!!!」

「血を見せろ!!!!」


 下品なヤジが飛び交う中、相手をじっくり見る。

 身長は俺の5倍以上。あろうかと思える巨人族ギガント

 体中に突き刺さっている槍や矢なども分厚い表皮を貫いていないようで咆哮を上げて観客を喜ばせていた。


 怪力の一つ目族サイクロプス、俊敏な小鬼族コボルト、全能の竜族ドラゴンと注意するべき種族は無限にあるが巨人族は竜族の次に注意すべき種族だった。

 一瞬の油断が即死に繋がるというのはここでのすべての戦闘において通ずるものであったが、特に巨人族は一瞬も油断が許されない相手だった。


「コロス!!」


 そんなことを考えていると早速走ってこちらに寄ってきた。

 右腕を振り上げ、棍棒を振りかざしながら走ってくる姿と大股に走ってくる姿から錯覚をしてしまいがちだが、実際に戦ってみると想像以上に俊敏で開始早々ノックアウトということも少なくない。


「ヤれ!!!!」


 観客の様子を見るに今まで何人かこのパターンで負けているらしい。

 実際、巨人族の中でも俊敏な動きだが、自分から見れば余裕で避け切れる。


「ウゴクナ!!!」


 涎を垂らしながら、棍棒を振り回す相手の目には既に狂気をはらんでいた。

 おそらく興奮剤を打たれているのだろう。

 気弱な巨人族では度々見られる状況だが、相手としてはやり易くなる、一つ一つの動きが緩慢になるからだ。

 しかし、脳のタガが外れ力が倍増し、予期しない動きをしたり痛みに強くなることがある。

 表皮までだと思っていた傷ももしかしたら重大な傷になっているかもしれない。


「ダマされないぞ!!」


 支離滅裂な事を叫びながら、棍棒を振り回すが。

 一つ一つ丁寧に避けていく。

 余裕を持ち距離を開けて避けているのだが、振り回した棍棒の風圧で飛ばされそうになる。

 確実に安全に攻撃を与えれる瞬間を待ちながら、避け続ける。


「逃げてばっかりだな!!」

「腰抜け!!!!」


 膠着状態に観客はたまらずブーイングを送る。

 どれだけ精神を削る行為をしているのかと、怒りを覚えるが、精神を落ち着かせ攻撃を避け続ける。


「コレでオワリだ!!!!」


 巨人族は叫び、今までよりも大きく振りかぶって

 砂埃が立ち込め辺り一面を覆いつくす。


「見えねーぞ!!!!!」

「どうなってんだ!!!」


 怒号が飛び交う中、風が吹き抜けた。

 コロシアム専属の魔導士によって視界がクリアになっていく。

 砂埃が晴れ喚声が鳴り響いた。

 巨人族の振り下ろした腕に深々と剣が突き刺さっていた。


「グァァァァァァ」


 痛みに耐えぎれずたまらず巨人族は叫んだ。


「いいぞ!!チビ!!!!」


 観客は喚声を上げるが、自分は焦っていた。

 思った以上に深く刃が入り、安易に抜けなくなっていた。

 必死に抜こうとした時、上から大きな掌が俺を襲い掛かってきた。

 咄嗟に俺は武器を手放して、緊急離脱する。


 ドーーン


 離脱際に右手が振りかざされた掌に触れ負傷した。

 少し触れただけのはずなのに、右腕は大きく腫れ上がった。


「理不尽だよな。種族差。」


 思わず不平を呟く。

 種族差を感じ、俺はそう呟かざるを得なかった。

 そもそも人間に最大の武器が頭脳っていうのも……


 ドーーーーーーン


 巨人族の作った大きなクレーターを見て背筋を凍らせた。


「考える暇もないのか。」


 その言葉を肯定するかのように連続で攻撃が繰り出された。

 必死に避けれる。受けることさえも死を感じるような中で必死に交わしていった。


「また同じことの繰り返しか!!」

「さっさと負けちまえ!!!!!」


 呼吸を整え、機会を伺う。

 冷静に状況を分析する。

 反撃する武器はない。

 相手は片腕を負傷している。

 興奮しきっている。


「そろそろか。」


 冷静に分析をし終わり、一度距離を置く。


「かかって来いよ。ウスノロ。」


 分かりやすい挑発をする。

 普通なら乗ってこないはずだが、頭に血の上っている巨人族には効果は絶大で声にならない声をあげながら突進してきた。

 負傷していないほうの手で棍棒を振りかざし、最初のように突進してくる。

 最初と同じように交わそうとした時、巨人族は不敵に微笑んだ。


「バカめ。」


 その瞬間、さらなる加速をした。


「わぁぁぁぁぁぁ!!!」


 コロシアム全体に観客の喚声が響いた。

 決着はついたと思ったのだろう。

 しかし、実際はまだ勝負はついていなかった。


「遅いな。」


 巨人族の攻撃を寸前で躱した黒い影が一つ。

 避けるだけに飽き足らず、急所であるあご先に向かっていった。

 巨人族の振りかざした手を踏み台にあとわずかで勝負は決まると思ったその瞬間だった。


「ウルサイ!!」


 巨人族は負傷していた手を無理やり動かし、張り手をかました。

 流石にそれに反応することは出来ず、鴻毛の様に吹き飛ばされた。


「勝者!!!!!」


 薄れゆく意識の中で、勝ち名乗りを受ける巨人族の姿が見えた。






「続きまして!!!!!本日のメインイベントを行います!!!!」


 コロシアムの中央ではそのまま巨人族との決勝戦が行われた。

 ゲートから真っ赤な竜族が現れたかと思うと、次の瞬間吐かれた炎によって巨人族は丸焦げとなり。一瞬で勝負は決した。











「よっ。最強くん。今日も生き残ったのかい。」

「黙って食えないのか。」


 闘士たちの食堂でいつものようにコロシアム所属の魔導士が話しかけた。


「まぁ、いいじゃないか。お前負けてばかりなのによく生き残っているなってこれでも感心しているんだからな。」

「一言、余計だな。」

「まぁまぁ、同じよしみでさ。俺たち安全地帯にいる魔導士でさえ一年以内には死ぬか辞めるかでいなくなる世界でお前はもう何十年も生きてるんだろ。」

「悪かったな。」

「いやいやすごいわお前。そもそも闘士五年以上生きてるのは今は、竜族のあいつとお前だけだろ。」

「そうなるかもな。」

「お前みたいな。貧弱な人間が良く生き伸びられるな。」

「お前も貧弱さで言えば同じぐらいだろ。黒長耳族ダークエルフ。」

「そうかもな。でもお前も明日で終わりかもな。」

「なんだ、その言い草。」

「活きのいい人間が入ってきてな。」

「最強っていうのはお前か。」


 自分の隣に筋肉隆々の男が座ったきた。



「さぁー。」

「とぼけるな。噂には聞いてるぞ。俺はお前を倒すためにわざわざここに来たんだからな。」


 その男の表情には自信が満ち溢れていた。

 たまに見かける。勘違いの力自慢だ。

 わざわざ、コロシアムの闘士として志願してくる馬鹿だ。


「なんのことですかね。」

「まぁいい。一週間後試合が組まれているからよ。」

「そうなんですね。その時はよろしくお願いします。」

「なんだ。つまらない腰抜け野郎だな。」


 後ろから何か言っているのが聞こえたが、頭を下げてそこから去った。

 次の瞬間、後ろから怒号が聞こえた。


「てめぇ、なんだその口の利き方は!!!!」

「いや、そんな……」


 後ろから怒号が聞こえたと思いきや、すぐに先ほどの黒耳長族が俺の前方の壁に投げつけられた。


「お前もここで終わりだな。」


 コロシアムの舞台では今日も新たな最強が生まれる。

 しかし、裏の世界では今日も最強の座を守るものがいた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強闘士はなぜ最強なのか。 天明福太郎 @tennmei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る