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しかし、レースは甘くなかった。

早田先輩は最初の30秒の差を3k過ぎた地点でだった5秒しか縮められていなかった。

相手も同じく三年生、持ちタイムもそう変わらなかった。意地のぶつかり合いという感じだった。


残りは2キロ。走れば長いが、差を縮めるには足りなかった。半ばやけくそ気味にペースを上げる。少しずつ距離は縮んでいくが、間に合わない、とわかってしまう。このまま行っても、最後はだれてしまうだろう。それでも、由香はペースを落とそうとは思わなかった。華はチームのため一人苦しい練習にも耐えて、力走で、一位でスタートしてくれた。優子もそんな華の気合いを引き継いで頑張ってくれた。一年生たちも、はじめての距離の練習に食らいついてきてくれて、勝利への希望を繋いでくれた。その希望を、勝ちたいと、そういい続けた由香自身が諦めるわけには行かないのだ。


そんな早田先輩の走りを、華はゴール地点で見ていた。先頭からは100メートルくらい。泣きそうな気持ちだった。

これまでなかなか接し方のわからない先輩だったが、駅伝の練習を通して、信頼し、信頼してもらえる関係になれた。だからこそ、勝ちたいと思っていたのに...

それでも、決して諦めていないその走りに、なにか、力が抜けるような気がした。

祈りはいつも届くわけではない。

努力はいつも報われるわけではない。

そんな事実を華はいつも他人の姿を通して、いやというほど見てきた。


先頭の豊橋南の選手がゴールする。その一団が歓喜に包まれる。これで、全国大会の出場が決まったのだ。

早田先輩は、それでも、表情を少しも変えず、ただ前を見据え走っていた。その右手には固く襷が握られている。少しでも早く、華たちにそれを届けようとする走だ。ゴールテープを切った瞬間、なにかが弾けたように、歓声があがる。駅伝メンバーが声をあげながら駆け寄る。

愛知県大会、二位。

これが、このチームでつかみとった順位だった。

そして、同時に、このチームで走る最後の大会だった。

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