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しかし、その後2区3区で桜ヶ丘は4位に後退してしまった。そして、続く3区で、なんとか巻き返そうと、優子が、力走をみせ、ひとり、射程圏内にとらえたところであった。
由香は、静かに優子が来るのを待っていた。
優子も華も陸上の推薦で桜ヶ丘に入ってきた。二人とも早かったが、タイプが違った。
華は冷静で彼女なりの理屈や戦略をもってる感じなのに対し、優子は感覚を大事にして走るタイプだと思う。
それが、2人の伸びかたに差を生んだんだと思う。新しい環境を冷静に分析して、自分の理屈に昇華させることができたのが、華で、だからこそ、急成長を遂げた。由香がまだ2年の時にすでにベストタイムも抜かれてる。
それに対して優子は新しい環境に慣れる時間がかかった。けど、慣れてしまえば、感覚が戻ってくる。それを冷静に分析できればよかったんだろうけど、華に対して、優子はちょっとした劣等感みたいなのを抱いてしまってた。でもそれも、最近来なって吹っ切れたようだ。記録も伸びてきてる。
頼もしい後輩ばかりだ。
あとは私ががんばらないと。
レースは優子が前をひとり抜き、3位につけていた。
優子は1区の華の走りを思い出した。死んでも首位は渡さない、というような気迫。華は時々すごい気迫を見せる。それから、東海大会での早田先輩もそうだった。
今、前の選手は頑張れば追いつけそうな感じがしてる。私も、華のように走れるかな。
一瞬そう思い、やめた。
今は早田先輩のために一刻もはやくたどり着く。横断歩道を越えたところでギアを上げた。このまま、中継場まで行く。少し速いけど、襷を外す。
これが、今の私の全力の走りだ。
優子は順位を2位に押し上げた。
華は走り終えると、暫く動けなかった。
ただひたすらテントの白い天井を眺めていた。
そして、ようやく気づいたときには、優子が3位から2位に浮上し、そのままの勢いで早田先輩に引き継いだところだった。
「よしっ」
華は小さく呟く。
勝負はアンカー戦に持ち込まれた。前を行く豊橋南は30秒差ほど。小さくはないが大きくもない。それに、豊橋南はエースの杏子さんはもう1区で出ている。
早田先輩なら、可能性は十分ある。
駅伝の練習を通して、本当に早田先輩が全国に対して本気なことがわかった。そして、本当によく働いていた。
だから、祈るような気持ちだった。
どうか、先輩が一番になれますように。
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