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そして、愛知県予選の日がいよいよ翌日となった。
明日のエントリーは、華は1区、最長区間6kかつエース区間だ。そして、2区を一年生美姫、3区は同期の真澄と繋ぐと、4区を優子が引き継いで、アンカー5区を早田先輩で終える。
練習後、最後のミーティングで、早田先輩が言った。
「控えのメンバーも、駅伝メンバーも、ひとつになって、明日、一番にたすきをゴールに届けよう。ほんとに頑張ってきたんだから、負けないよ!」
「はい!」
早田先輩の本気は、ちゃんとみんなに伝わっている。
明日、自分のすべき走りを、みんな知っていた。
じゃあ、またあした!
と去り行くみなは心強い味方だった。
当日は各人のスタート位置に現地集合だった。男子も同じ日に予選が行われるため、人手が足りないので、短距離の子もサポートに来てくれている。
1区には東海大会にいた豊橋南の、早田先輩の友達の、杏子さんもいた。
それでも、負ける気がしないというのはこういうことなんだろう、華の心は落ち着いていた。
点呼が始まった。
学校の名前が入った紫紺の襷を桜色のユニフォームを着た左肩から掛け、ランニングパンツに挟み込む。
「桜ヶ丘高校、二宮華さん」
呼ばれて、ベンチコートをめくり、ゼッケンと襷のチェックを受ける。この瞬間、周囲の視線が注目してるのがわかる。インターハイ二位という肩書を突然思い出す。
その肩書は、時に華を不安にさせることもあった。それでも、今日は違った。あのときのような走りをするためにここにいるのではない。今日勝って、助けてくれた人に恩返しするために走る。そして、もう一度いろはと戦うために、走るのだ。
ひととおりの点呼がおわり、いよいよ、スタートラインにつくよう指示があった。ベンチコートを付き添いの後輩に渡す。
頑張って下さい、うん、と簡単なやり取りをして、スタートについた。ひとり置いた隣には、杏子さんがいた。早田先輩もきっと、中継でこの様子を見ているだろう。今度は勝って見せます、と心で呟く。
そして、いつものように左胸に手を当てる。普段は薄いユニフォームをはさんで体温を感じるが、今日はそこには襷があった。
目を閉じて3秒間。
空は、薄らぐものきれいな水色だった。
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