3

その日の練習のはじめ、突然監督に設定タイムをいわれた。

「二宮、今日は集団抜けて6km20分で走れ」

つまり、1キロ3'20"ペース?いままで、3'40"で途中まで来て、ラストあげるくらいだったのに。。。

華が明らかに嫌そうにしてると、早田先輩が寄ってきた。

「チームのことは私に任せて。最近、後輩のフォローばっかりだったでしょう?」

「でもそれは私がやりたくてしてて」

「やってほしいの。チームのために。エースになってほしい。」

渋る華に、まっすぐそう言った。

「二宮、」

監督が呼ぶ。

「やれるな?」

「...はい」

こうして、華は再び数字との戦いに挑むことになった。


しかし、それは簡単ではなかった。

スピード自体は3000で走っていたより遅いが、なかなか最後までキープできない。

伸び悩むと、いろはに相談した。

それに対していろはは

県の駅伝の先輩に一緒に走ってもらったら?

とか、インターバルいれてみたら?とか、いろいろなアイデアをくれた。そして時には、今週末暇だから走りに来る?といって、実際二人で走ったりもした。


苦しむ華に先輩たちもたくさん応援してくれた。

燈真先輩は、練習中折れそうなとき入ってきて、

「後ろつけ!」

といって先を走ってくれた。

前を走る人がいると、風が避けられるだけでなく、ただついていくだけで前に進むから、無になって走れる。それが結構大きかったりする。

そして、それはおそらく早田先輩の差し金であることは間違いなかった。その早田先輩は、1、2年生がメニューを全員こなせるように、走りながらも常に目を配っていたし、本人も練習に一切妥協しなかった。

「華、今日はどうだった?」

もちろん、華のことも気に掛けていた。

「だめです、ラストのラップが」

「燈真いてもだめ?」

「5キロ越えた辺りで急にだめになります。でもいてくれた方が、走りやすいです。」

「まあ、もうちょい繰り返すしかないかな」

「...頑張ります。」

そして華のタイムに対しても、一切妥協しなかった。でもだからこそ、早田先輩の本気を感じていたし、それに答えようと頑張れたのだ。



そんなたくさんの人の協力のお陰である日、

「19分58!」

ついに設定タイムをクリアした。

予選まで

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る