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都道府県対抗駅伝とは別に、高校長距離界のもうひとつの主要な大会、全国高校駅伝の予選が11月に行われる。

部の練習はそれに向かって進んでいた。


駅伝は一区間3kから6kを5人でつなぐ。インターハイの女子は3000mが最長だから二倍の距離がある。

区間エントリーが決まるまでは、全員がどの区間も走れるように、長い距離の練習がある。華や早田、優子ら二三年生は3000の練習もしており、まだよかったが、一年生にとってはかなりきつい練習となっていた。

そのため、華は途中までは余裕をもって走り、後輩たちを励ましながらの練習だった。

そして、ラストはグラウンドを全力でスパートをかける。

終わるとヘトヘトだったが、ゴールすると後続の選手に声を掛けることを欠かさなかった。


そんな華の様子を見ていた三池があるとき話しかけてきた。

「お前、変わったな」

「そう?」

「まえより、優しくなった。後輩としゃべってるとこなんてみたことなかったもん」

「あー、たしかに」

前は、速く走れるも走れないも、自分の努力の因果にすぎないと思っていた。

そう思うあまり、周りにも関心が持てなかったし、頑張っているのに結果の出ない仲間にどう接していいかわからなかったのだ。

でも、真木いろはに会って知った。

誰かのお陰で速く走れることもあると。

そして、誰かのために走ることもできると。

「私変わったなー(笑)」

楽しそうに呟く華によかったな、と三池も笑いかけた。


そんな華の変化を、微笑ましくも、物足りなく感じていたのが、監督と燈真、早田の先輩二人だった。

ある日、早田由香と山田燈真は一緒に下校していた。

「華は、最近ちょっと心配」

そう由香は切り出した。

「今年は、華に1区走ってもらうつもり?」

1区はもっとも長く、エース区間ともいわれる。

「わかんない。1区か5区。わたしか華で。1区に華を置くなら、確実にそこで差をつけてもらわないといけないから。」

「それにはまだ足りない?」

「うん」

「そうかー」

「今の感じだと、チーム全体をあげてく感じだから、私が1区無難に差を開けられないように頑張って、5区のアンカーで華が勝負するのかなとも思うし、それでもそれなりの結果はでると思うんだけど」

「エース区間にエースをおけるチームは強いよな」

「華はもっとやれると思うの」

「女子の駅伝主将として、思うことがあるなら監督に言ってみたら?」

「そうしようかな、、、」

そうしろそうしろーと、燈真は軽く由香の肩を叩いた。



後日、早田が監督を訪ね、考えてることを話した。すると、

「そうだな。あいつは最近声をだすようになって、雰囲気もよくなってる。だけど、もうちょっと自分の走りに比重を置けば、長い距離でもいいタイムは出るな。」

「わたしも、そう思うんです。」

「まあ、スピードを重視するようには俺から指示を出そう。そんで早田、お前が、チームを走りで纏めろ。」

「...わかりました。頑張ります。」

「お前の本気はちゃんとみんなに伝わるよ」

「え?」

「全国、狙うんだろ?」

すこし、躊躇ったが、まっすぐ、見返して返事をした。

「はい、狙います」

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