朝焼け

1

2学期にはいってからは、いろはと話して気分が落ち着いたからだろうか、調子は少しずつ戻ってきていた。

そして、華自身、少し変わったこともあった。

「優子!ラスト!ファイト!!」

基本個人競技なトラックシーズンがおわり、駅伝シーズンになったこともあるが、前よりチームメイトに声をかけることが増えた。

自分のためだけじゃなくて、みんなのためにも走る、そう思うようにしていた。

すると、案外周りはすぐ寄り添ってくれた。

「はーい、じゃー交代して次の組準備してー」

華の走る番になって、準備をしてると早田先輩が、

「私は後ろにつくから、華、引っ張って。」

そう声をかけてきた。信頼関係が少しずつ出来上がってきている。

「あと、美姫は華にしっかりつけて。」

早田先輩が、一年生の子にそう指示すると、

「華先輩、よろしくお願いします」

後輩も、ついてくるようになった。

チームがうまく行き始めれば、余計なことに気をとられずに済み、気持ちよく走ることができていた。


そんな折だった。

監督が華のことを体育教官室に呼び出した。

なにかと思いドキドキして待っていると、やってきて言った。

「都道府県対抗駅伝に、高校生区間でお呼びがかかったぞ。でるか?」

都道府県対抗駅伝は、県内の中学生から社会人までの選手を選りすぐって、年明けに行われる駅伝大会だ。

「...すこし、考えさせてください」

「意外だなあ、即決かと思った。まあいい、好きなだけ考えなさい。けど、俺はでればいいと思っているよ。多少そちらの練習には時間を持ってかれるけど、社会人や、大学生と練習できる貴重なチャンスだからね。」

「はい」

華は、ひとりで走りに行くことに、少し臆病になっていた。

この部活のチームのために走ることで取り戻しつつある今の走りの感覚を失うのが怖かったのだ。


その夜、華はいろはにチャットを入れた。

『いろは先輩、都道府県対抗駅伝に誘われました。そっちの練習中はチームを離れなきゃ行けないので迷ってます。どう思いますか?』

すると、しばらくして返事がきた。

『でもそこで強くなって帰ってこればいいんだよ。私も東京代表ででるから、出ようよ!ファイト!』


そして、翌日、監督に出ると伝えた。

決断の理由は、いろはからのアドバイスでもなく、ただ、いろはも出る、それだけで十分だった。

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