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夏休み最終日だった。
華は友達の家に泊まるから、と家をでて、東京に向かっていた。
目指す場所は、新海学園高等学校だ。
ためていたお年玉を使って新幹線にのり、迷子になりそうになりながらも、地下鉄を乗り継ぎ、ついにたどり着くことができた。
正門は門が1割開きくらいになっていて、人が一人やっと通れる程度だったので、侵入は止めておいた。
さすが、東京の私立というところだろうか、きれいな校舎だ。正門をはなれ、学校の周りに沿って歩き始めた。結構広い。そっか、中高一貫こうだっけ。中学生らしいまだ幼げな子たちが笑いながら帰っていく。
そして、校舎が突然途切れると、そこに広いグラウンドが広がっていた。中央は人工芝で、トラックは真新しいきれいなブルーだ。
しかし、そこに長距離の陸上部員らしき人影は見当たらなかった。
さすがに、向こう見ずな計画だったか。
と、半ばあきらめて、それでもあの人の練習してた景色が見れてよかった、と思い直していると、少し遠くから集団で走ってくる気配を感じた。
振り返ると、その集団の先頭に、求めていた人がいた。
ブルーのTシャツに黒のランパン。
そして、あのダイナミックなフォームでまっすぐ前を見据え走っていた。
一瞬、こちらを見たように感じたが、華だとわかったかどうかはわからない。そして、走り去っていった。
華は立ち尽くしていた。
なんとなく、動けなくなってぼーっとグラウンドを眺めていると、しばらくしてグラウンドの奥から先ほどの集団が入ってきた。
そしてトラックにはいると同時に、先頭が一気に加速した。紛れもなく、真木いろはだった。
おそらくグラウンドまでは設定タイムで引けという指示だったのだろう。一気に後ろを突き放し、ゴールした。その後ろを折田菜月が追いかけてゴール。残りの集団もバラけながらも続いてゴールしていった。
ちらり、といろはがこちらを見た。
慌ててお辞儀をしたが、顔をあげたときにはもうこちらを見てはいなかった。いろははキャプテンなのだろうか、おくれて入ってきた部員にラストー、と声をかけている。それに続いて他の部員も声をだす。
なんだ、と思った。
そして、なにが、なんだ、なんだろうと思い、理解した。いろはも自分と同じように早く走れる喜びを他人と共有できず、人間関係に悩んでいるのではと勝手に期待してたのだ。
ばかみたい。
クールダウンのジョグが始まっていた。
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