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インターハイの決勝、華は9'08"という自己ベストを8秒も更新する驚異的な走りをした。
しかし、その後不調に陥っていた。
あの走りをもう一度したい、と思うのにうまくいかない。
あのときは、力が抜けて楽な走りだったと思い、力を抜けばペースも落ちてしまう。ストライドが大きかったなぁ、と大きくしてみても、疲れてしまってタイムが伸びない。諦めて普通に走ろうと思うと、どうやって走っていたのかわからない。そんな調子だった。
ひとり悶々とする華に、周りはなんと声をかけたらいいかわからないようだった。
しかし、華もそんな周りに気を遣う余裕はなかった。次第に口数もへり、あまりしゃべらなくなった。
そんな華を見かねて、ある日部室で優子が声をかけてきた。
「そんな焦らなくてもいいじゃん?ゆっくり進もう?」
心配してくれていたんだと思う。けど、
「そんなん、焦るに決まってるじゃん。優子にはわかんないんだよ。」
華には余裕がなかった。
「もう、どうやって走ってたのかもわかんなくなっちゃったんだよ?私はまたインハイの時みたいにはしれるの??走れる気がしないんだよ!...どうしたらいいのよ」
実際、最近の練習では、優子や早田先輩と同じくらいのペースでしか走れていない。
それでも、インハイ二位という実績がついて回ることが、余計に追い詰めていたのかもしれない。
「華だって、私の気持ちなんかわかんないよ」
ぽつりと呟いた優子の目は涙で潤んでいた。
あ、やってしまった、と華は思ったが、遅かった。
「もういい...」
涙をぬぐいながら出ていく優子に、すれ違いで入ってきた早田先輩が大丈夫?と追いかけていってしまった。
もう最悪だ。
乱暴に片付けると華も部室を出ていった。
それから、優子とは話さなくなってしまった。謝ろう、とも思ったけど、タイミングがなかった。優子は早田先輩や他の子といることが多かったし、なんとなくはなしかけにくかったのだ。
そんな状況で、練習も楽しくなくて、部活を休んでひとりで走りにいくこともしばしばあった。走ることだけは止められなかった。
どんなに苦しくても、あの走りをもう一度したい。その気持ちが薄れることはなかった。
だが、やり方がわからない。
インターハイから1ヶ月がたとうとした頃、華はひとつ確信していたことがあった。
真木いろはともう一度走らなければいけないと。
だけど、学校名と学年くらいしか知ってることがない。手っ取り早く会える方法は、いろはの出そうなレースに出ることだが、なにせ、いまは早く走れない。
どうしたらいいか。
直接、訪ねるしかなかった。
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