4

翌朝は一瞬だった。

とにかく午前中から走んなきゃいけない華は早めに起きて、朝食を軽く済ませると、すぐにジョグに出掛けた。

戻ってくるとユニフォームをしたに来て、ジャージとTシャツを上からはいた格好でエントランスに向かった。もう暑くなり始めた中、競技場につくとすでにたくさんの選手や監督がいた。

ジョグをして来たばかりなので、あまりアップは急がず、スタンドの一角を場所取りして荷物は監督に預けた。そして、優子と二人アップにむかう。


想像以上の忙しさだった。

緊張する暇もない。


たんたんとアップメニューを消化し、そのまま召集場に向かった。

召集場の手前、優子とわかれるとき

「頑張って」

「頑張る」

短い言葉が、改めて、レースだと思い出させる。

こんなレースはじめてだ。正直、決勝進出の自信は結構あったのだが、ここに来て不安になってきた。弱気、だめだ。


召集場には先に予選一組の選手がすでに集まっていた。その中には、二連覇のかかった大本命、真木いろはもいた。

すごい。そもそも、3000の「予選」自体がはじめてで、こんなに人が多いのか、と少しのまれそうなのを必死で押さえ、点呼を待つ。すると、隣にいろはと同じユニフォームをきた子がいた。あれ?見たことある、だれだっけ??

そう思っていたら、点呼でわかった。

「新海学園2年折田菜月」

私の代の全中とった人だ。華は全中はそんなに芳しくない成績だったから、むこうは覚えてないだろうけど。

しかし、思い出したことで、逆に緊張してしまった。そういう人たちと走るんだ。



トラックへの入場になった。

めったにスタンドをながめたりしないのだが、たまたま、監督と先輩たちがいるのを見つけた。

「華、ファイトー!!!」

声を揃えて叫んでくれた。

インターハイ女子3000mにでるのは、桜ヶ丘は華ひとり。今日は誰にも気兼ねなくていい。みんな応援してくれてる。

少し落ち着きを取り戻した。スタートにつく。このレースは折田菜月についてみよう。


左胸に手を当てる。目をつむる。それから三秒、今日の空は入道雲が浮かんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る