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インターハイはバスで前々日入りし、翌日午後に一二時間練習して、あとは本番に備えるという日程だった。行きのバスは短距離の子も一緒にトランプをしたり、DVDを見たり、比較的リラックスしていた。


が、宿について夕食の時間になって、燈真先輩が気持ち悪いと言って部屋にこもってしまった。

「あの人ああ見えて緊張しいなんだ」

斎藤がそうポツリと呟いた。

「東海大会のときもさ、召集場でおれに、やべえはらいてぇって泣きついてきて。」

そんときは動いてりゃ治るって言ってやってずっと、周りをちょこまかしてたんだけど、と言って

「インハイ、大丈夫かな...」

いつも、元気なやつが神妙な感じだと不安になるよね。

まあ、緊張するのが普通なんだろう。私みないなののほうが珍しい。


その日はそのままお開きになって、翌朝食堂に来ると、けろっとした顔で燈真先輩が来てた。

「昨日夜食べ損ねたらめちゃ朝から腹減ってる」

とかなんとか言ってがつがつ食べてた。

心配して損した、と隣の斎藤は不満そうだ。


午前中に明日からの日程の簡単な説明と、監督からのイメージトレーニングをちゃんとしろよという話があってから、近所を軽くジョギングした。そしてお昼ごはんもほどほどに競技場へと向かった。


競技場はすでに明日からの準備ができており、様々な学校のジャージで賑わっていた。

あんま、練習って感じじゃない。もうすでにアップみたいな雰囲気だ。案の定隣では燈真先輩が表情をこわばらせている。でも、さすがの私も少し緊張してきた。

短距離ブロックと別れて、監督と五人でサブトラックに向かった。

女子3000の予選は明日の午前中からだ。

いよいよ、という緊張と高揚が漲ってくる。

それを落ち着かせるようにゆっくりとストレッチを始める。優子がさりげなく補助してくれる。


結局、その日の練習は誰もしゃべることなく、終わった。

帰り道、

「くそ、前日から本番みたいな空気だった!」

と、燈真先輩がいうのに、みんな大きくうなずく。明日はどうなっちゃうんだろう。

その夜はみんなちゃんとゴハンをたべ、早めに部屋に戻った。

明日に備えて。

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