鮮烈

1

東海大会が終わって、ある日、二宮華は必死に前を走る長髪の男子を追いかけていた。

苦しい、苦しい、苦しい。

そんな言葉がひたすら頭をめぐる。

「あごあがってるぞー」

くっそ。うるさい。わかってら。

「ラストー!」

さっきまでは自分がひいひい言ってた燈真先輩も復活して檄をとばしてくれてる。

「っ...あぁ!...はぁ、はぁ、きつ...」

やっと、おわった。

「あーきっつ!」

と前を走ってたロン毛、長距離ブロック二年の斎藤亮太がさけぶ。

「おめーはそれほどだろ」

「てへ。でも楽じゃねえっすわ」

2年男子では一番速いが、ギリギリインターハイは予選落ちで出れなくなってしまい、華の練習を時々手伝ってくれてる。

もっとも、当の本人は予選落ちなど少しも気に病んでいない。


東海大会二日目。

男子5000mに出ていたのは燈真先輩、斎藤亮太、それに2年からもうひとりだ。

燈真先輩が華と同じように序盤は集団中ほどで様子見してたのに対し、斎藤は序盤から集団の先頭にいてのっけからすべての勝負に乗っかっていた。そのせいでラストスパートがもたなかったと思うんだけど、本人はえらく楽しそうで、監督が一言、お前はもう少し落ち着いてレースしろよ、と言ったが、聞く耳持たずという感じ。みんな諦めてる。

結局男子5000mは燈真先輩ひとりがインハイに行くことになった。


それから、約一ヶ月半後のインターハイにむけて、私と燈真先輩はまわりよりちょっとだけハードなメニューに切り替わった。

2年生以下は来年にむけてほぼ同じメニューを設定タイムを変えてこなしている。けど、早田先輩は冬の駅伝に向けて長い距離の練習をひとりで始めていた。相変わらず長距離女子とは微妙な距離感が続いてる。


「たく、亮太が一緒にメニューこなしてくれりゃ、もう少し楽だったのに。」

「先輩、そんな甘えたこと言ってると、ぶっちぎりのビリになっても知りませんからね」

男子はほんとさっぱりしてていい。私はいえないよ、そんなこと。

「あー...、もうむりー...」

少し後ろを走っていた同期の白石優子がエンドラインを越えて、隣にたおれこんできた。

「おつかれ」

華はそういってマネージャーのかわりにボトルを渡した。

「ん。」

ひとしきり、きつかったーといいドリンクをのみ終えると、優子は言った。

「来年はさー、私も3000で出たい。」

優子は今年は1500で出ていたが、地区大会で12位かそこらだった。たぶん距離が長い方がほんとは得意なんだけど、3000は今回参加記録会に達しなかった。

「うん、でよ、3000で」

「へへ、ちなみにインハイね」

「うん」

さりげなく合図ちをうってから、遅れて驚き、改めて優子を見る。いや、無理とかそうは思わないけど、そういうキャラだっけ。

「ずっと、華とばっか比べて、比べられて、インハイなんて夢だなーっておもってたけど、早田先輩みて、私もまだ諦めたくないって思ったんだー」

だからねがんばるのー!と、仰向けになった。華は嬉しかったが、私と比べられてることに色々悩んでたんだろう、とすこし申し訳なくなった。

こういう些細なことを気にしすぎなんだろう。つられて、はなも仰向けに寝転がった。

よーし、燈真もう一本いくぞー

監督のこえがグラウンドに響く。

空は青かった。

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