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レースは良くも悪くも華の見立て通り展開した。

序盤、順当なタイム順では6位に入り込めないとにらんだ選手たちが積極的にペースをあげて仕掛けてきた。華はそれにのまれないように、集団の真ん中少し後ろ目に位置取りをして、体力を温存していた。

中盤になると前半飛ばしていた選手のうち力のない人たちがずるずると交代していった。それでも、先頭に残った人たちは最初より少し落ち着いたペースでレースを進める。

それを見て華も徐々に先頭に移動していく。

その中には、華より持ちタイムの良い、豊橋南の三年生や、浜松学院の三年生もいる。


それから、早田先輩もいた。

このペースは先輩にとっては少し速い。走りきることはできても、勝負する余裕はないかもしれない。それでも、先輩は戦うんだ。


また意識を持ってかれそうになって、あわてて周りを見る。

レースに大きな動きはなかった。ふと周りの喧騒が聞こえてきた。あれ?集中が、きれたか?陸上競技は同時にいろんな種目が行われる。いま、右手ではハイジャンで誰かがバーをきれいにこえたところだった。

それと同時に、浜松学院の3年生が徐々に先頭に近づいていく。飛び出しやすい位置取りだ。周囲も少しずつ動きがある。華も豊橋南の三年生のうしろにぴたりとついた。臨戦態勢だ。先頭集団に緊張感が走る。

しかし、そこで一旦怪しげに動きは落ち着いた。勝負はラスト一周、いや、一周半。


そして、再びハイジャンの横を通りすぎたとき、華はギアをあげた。ロングスパートだ。

歓声が上がる。ハイジャンのほうだ。

冷静に先頭まで出る。しかし、浜松学院の選手もついてきた。最後には抜かれるかも。でも、カーブを利用して一瞬後ろを窺うと集団から5人ほど抜け出して縦に延びているのがわかる。これで、インターハイには出られるはずだ。

二年生にスパートをかけられ、若干動揺したかとおもっていたが、やはり力のある選手だ、豊橋南の三年生も追い付いてきた。そして、そのまま更に追い越しにかかってくる。

それになんとかくらいつくのが精一杯だ。苦しい。血の味がする。これは、大丈夫じゃないやつ。じわじわ離されていく。が、後ろは来なかった。

結局、三位でフィニッシュするとそのまま膝をついた。

一位の先輩が、なにやらおつかれ、などと言いながら近づいてきて手をさしのべてくれたので、それに甘えて立つ。有難うございました、とお礼を言ったはずだが、定かではない。あとから来る選手のためにコースをあける。


そして遅れること10秒ほどで、早田先輩もフィニッシュした。9位だった。

ゴールして膝をついてた先輩に声をかけに行こうと思ったら、意外にも、一位だった豊橋南の三年生が先に早田先輩に手をさしのべてた。二人はなにか話すと、ケラケラとわらって、最後に、インターハイも頑張ってというように、早田先輩が背を叩いてた。


それを見て、なんか、なにを声かけたらいいかわからなくなった。


立ち尽くしてたら、早田先輩は私のとこまで来て、おつかれさま、戻ろっか、と言って歩き始めた。それに、おつかれさまです、となんとか返事をし、ついていくことしかできない。

「三位じゃ悔しい?」

突然聞かれた。

「いや、そんなことないです。いまのベストです。」

「じゃーなんでそんな元気ないの。やりきった、次もある。もっと堂々としてりゃいいのに」

「すみません。...そうですね。」

気を、遣わせてしまった。

「あの、先輩は豊橋南の人と知り合いなんですね」

「うん。中学が近くてねー。地区大会とかから一緒だったから。昔からあと一歩届かない感じだったけど、むこうはライバルって言ってくれててさ。」

ほんとは、一緒にインターハイ、行きたかったんだろうな。

「だから、さ、今度は勝ってきてよ、杏子にも」

「はい」

杏子さん、っていうんだ、とはじめて知った。

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