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三池のお陰で、レース前の集中を整えつつあったところで、召集前の監督への挨拶があった。当然だが、一緒に出る早田先輩も一緒だ。

「これまでやってきたことを信じて、堂々と戦ってこい。」

ありきたりな言葉で送り出されて、先輩と二人、召集場に向かう。話すことがない。三池と二人の時も話すことなんてなかったけど、気にならなかった。なんでだろう。

「華、...がんばろうね」

不意に呼ばれた声が、思いの外やさしくて、あ、こんな風にしゃべるんだっけ、と少し驚いたせいで、返事が不自然に遅れた。

「...はい」

思えばやさしい人だった。入学したての頃は、部室の使い方から、朝練が長引いてSTに間に合わなさそうなときの校舎までの近道まで、事細かに教えてくれた人だ。

なにか、もっと話したい、そう思ったけど、なにも出てこない。そうしているうちに、召集場についてしまった。あとは、ながされるまま点呼が行われ、ゼッケンが確認される。

そして、ジャージをあずけてそのまま入場だ。話してる暇などない。

と、華はまた意識がレースから遠退いていたことに気づいた。

集中集中、と言い聞かせる。


前の種目が終わり、いよいよトラックに入場だ。やっと、集中を取り戻した。インターハイ出場をかけたレース。だったが、よくも悪くも華はそこまで緊張はしていないと感じた。

回りは多くが三年生にみえる。ラストチャンスというプレッシャーもあるのだろうか、緊張している人も多いなと冷静に思った。


選手紹介は話し半分に、レース展開を考える。

自己ベストだけで言えば、華のタイムは二番手か三番手だった。六人がインターハイに出られるとすると、単純な力負けよりも、レースの仕掛けに煽られてスタミナを失う方がリスクがある。ある程度自分のペースで行く方がいい。

よし。

戦略を今一度確認し、気持ちも落ち着いてる。


最後にいつものルーティーンとして左胸に三秒手を当てて目をつむる。そして空を見上げる。今にも雨が降りだしそうな重い曇。そして対照的にビビッドな赤いタータン。



それでは位置について



よーい

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