3

「なんで、三池がアップのパートナーなんだろね」

自虐的な意味も含めてそう言うと

「さあ、タイムが同じくらいだからじゃね」

と、さもどうでもいいというようにあしらわれた。うんまあそうかもしれないけれども!

けど、今はどうでもいいよね。目の前のレースに集中しなくちゃ。

土のタータンのサブトラックについて適当なところに荷物をおいたら、いつものようにストレッチをはじめる。それが終わるとトラックの外側をゆっくりと走り始める。三池も無言で並走する。他の学校の選手も何人かいたが、集中し始めた華にはあまり関係なかった。

ふと、トラックの脇に目が行った。

アップをする早田先輩と燈真先輩だった。二人は同級生だし、私が早田先輩とアップをしない以上、燈真先輩がついてるのはなんら不思議ではなかったが、なんとなく、それだけじゃない気もした。

たぶん早田先輩は燈真先輩のこと、好きだ。

女の勘だけど、普段も時々感じる。当の燈真先輩は全く気づいてなさそうだけど。

それも、華がやりづらさを感じる原因のひとつだ。

あーあ、ほんとめんどくさい。

乱された集中を取り戻すべく、短く息を吐く。三池はチラリとこちらを見たが、とくになにも言わず並走を続けてくれた。

まあいい。今は走るだけだ。


しばらくダラダラ走ったあと、少しだけ速いペースで走ることにした。

足の回転、接地の感覚、腕の振り。。。それらを勝負どころのトップスピードで確認する。まあ悪くはない。

数本走ったところで、切り上げた。一時間前だ。

ふたたびゆっくりとストレッチし、緊張を緩める。このまま召集場に行きたいところだが、監督のとこに行くことになっている。

仕方なく荷物を片していると、三池が突然言った。

「お前さ、全国行けよ」

時々集中が切れていることを勘づかれてるんだろうか。だとしたら、妙に鋭いところがあるよな。そう思って、それから、笑顔で

「うん。狙うよ。」

そう返す。今年はちゃんとベストで走れば行ける。大丈夫。レースが始まってしまえば、先輩だろうと、他校だろうと関係ないもん。

「応援、してるからな」

それきり、また会話はなくなった。が、さっきより少しだけ、緊張が解れた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る