2

6月半ばの週末、二日間に渡って名古屋の陸上競技場でインターハイ東海地区大会が行われる。


午前中は短距離部門の予選などが行われていて、華の出る女子3000mは午後3時からだったため、華はスタジアムのベンチで早めのお昼ごはんを軽く食べながら、ひとり、トラックを眺めていた。


正直、陸上部で、華は少し浮いてる。

同じように陸上の推薦で入ってきた同期もいるけど、華の伸びは頭ひとつ抜けていた。最初はちょっとしたことだったけど、練習の設定タイムや、駅伝のメンバー選抜など少しずつ目に見える形で差が広がってくると、お互い気になってしまい、少しやりにくくなってきた。

それでも、華はクラスにも友達が多いほうだったし、部活で少し浮くくらい、気にしていなかった。けと、一年の冬、自己ベストで二年の先輩すら抜いてしまってからは、先輩とも少しぎのちなくなってしまい、さすがに少し気にしはじめて今に至る。

「とはいえ、どうしようもないよなぁ...」

ひとりで呟く。

華自身は、速く走りたいし、速く走ることが楽しい。周りもそれを望んでる。それで問題ないはずなのに、どこか寂しい。


「二宮ー」

不意に呼ばれて振り返ると、三池がいた。

「なにー?」

「アップ、手伝えって燈真先輩に言われたから。お前、いつアップいく?」

「あー、ありがとう。もうちょいしたら行く」

「もうちょいって...じゃあその辺にいるから、行くとき声かけて」

「はーい」

こうして男子のやつらは、気を遣わず話せるからいい。はーあ、ほんと女子ってめんどくさーい。男子に生まれとけばよかった。男子の方が速く走れるし。


そんなことを思いながらお弁当のゴミを捨てに立ち上がった。

見渡すと、いろんな学校が固まって応援したり、マッサージしたり、一見リラックスしているように見えて、どこか緊張している。

砲丸投げの選手の雄叫びが聞こえる。

ああ。

レースの予感を身体が感じる。さっきまでの雑念が消えてゆく。

そのままアップにいってしまいたい気もしたが、ひとりでアップをすることは監督からも禁止されてるから、したかなく元きた道を引き返す。

桜ヶ丘もでない選手も含め、学校でひとつの塊を作っていた。その中に女子3000mにもうひとり出る、早田由香という三年生の先輩もいた。が、最近はあんまりしゃべってない。だから、燈真先輩が気を利かせて三池を私のアップにつけるようにしたんだろう。自分の荷物を持ち、そっと三池のところへ行く。

「そろそろ行く」

そう言うと、三池は了解、とあとをついてきてくれた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る