⑩ 文学乙女会議 大人version再び ~side:夢未~

 今日は再びの文学乙女会議。

 目玉はもちろん、ももちゃんに赤ちゃんができたことなんだ!

「生まれてくる子の名前は、女の子なら、ももジュニアとかどう? 男の子だったら、リトル・マーティンが鉄板ね」

「あのせいら。ギャグ漫画じゃないんだから」

 さっそくカフェインを控えなきゃということで、ヘルシーな野菜ジュースを一口飲むと、ももちゃんはにやり。

「でも、ドラマチック度で言ったらせいらもいい勝負じゃない? 別れ話は大けがを負って負担をかけたくないからだったなんて。どんなドラマのヒーローだよ。そりゃ勢い逆プロポーズもするわな」

「彼が病院にいるのがわかったのもみんな、ももぽんが倒れてくれたおかげよ♡ ありがと」

「嬉しくなーい」

 せいらちゃんはレモンジュースを飲んで、うつむいてはにかんだ。

「海外に、いいお医者様が見つかってね。本人はそこまでしなくてもっていうけど、引きずってでも治療受けてもらうの。希望はゼロじゃないんだもの」

「ぜったい、だいじょうぶだって。このぶんだと、プロポーズのセリフ、向こうから言ってくるのも時間の問題だねぇ?」

 盛り上がる二人に、わたしはほほ笑んだ。

「ももちゃん、せいらちゃん、おめでとう」

 そして、伝票を手にして椅子を引く。

「ごめん、大学に仕事残してきたの思い出した」

「夢っち?」

 目を丸くして、せいらちゃんが見つめてくる。

「わたし、今日はここで」

立ち上がりかけた手をつかまれる。

 そこには、真剣な目をしたももちゃんがいた。

「夢、待って」

「……っ」

 うつむいたとたん、あふれそうになる涙を必死にこらえる。

 どう切り出そうか迷っているとさきに気づかれてしまった。

「夢っち、その右手」

 せいらちゃんが指摘したとおり、右手の薬指。そこには、ついこのあいだまであったシルバーのリングがはまっていない。

「返してきた。婚約指輪……星崎さんに、返してきたの」

 ぐっとつかまれた手を引かれて、抱きとめるようにももちゃんが肩に手をおいてくれる。

「なにやってんの? ちゃんと説明して!」

 立ち上がってしまったわたしたち二人をなだめて席につかせながら、せいらちゃんがうながしてくれる。

「夢っち。ゆっくりでいいわ。落ち着いて」

 激しくなる息を整えて、わたしは言った。

 ももちゃん。せいらちゃん。

 わたし――。

「星崎さん。ごめんなさい。わたし、やっぱり、星崎さんと結婚できません」

 そう告げたのは、つい昨日のこと。

 どうして、そう訊く彼に、ただ、こう答えるしかなかった。

 今は――なにも訊かないでください。

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