④ 文学乙女会議大人version ~side:夢未~
今日は久しぶりに三人集合の文学乙女会議。
会議室はおしゃれなイタリアンランチのお店でに入ると、窓際の席についた二人が手を挙げていた。
「夢っち、こっちこっち」
せいらちゃん、長い髪が最近ますますきれいになったかな。
「久しぶり~、元気してた?」
美術関係の仕事を目指してがんばってるももちゃんは最近作業用おだんごヘアが多くなった。
親友二人の顔見たら、テンションがあがったけど。
「お待たせ。二人とも」
でもわたしには気になることがあった。
ちら、とももちゃんを見て、迷ったけどやっぱり訊いてしまう。
「その……だいじょうぶ?」
ももちゃんはちょっとだけ目をふせて、笑った。
「うん、平気」
わたしが言っているのは、昨日週間紙に出た報道のこと。
今では人気の画家のももちゃんの旦那さんのことだ。
「今までだって根拠のないこと書かれるのはちょくちょくあったし」
思ったより元気そうで、ほっとする。
せいらちゃんもそのことは気になっていたようで、深刻そうなまなざしがおいかけてくる。それを受けて、ももちゃんは微笑みながら、ちょっとだけ眉根をよせた。
「ただ、でっちあげ熱愛報道の相手が、今回はカリスマデザイナーだからね。堪えたといえば、それがちょっと」
どういうことだろう?
このあいだは有名モデル、その前は歌手の女性だったけど。
それより、デザイナーさんのほうが問題なのかな。
「あたしも一応、そっち方面目指してるからね。……やっぱり、みんながマーティンにふさわしいって思うのは成功してる女性なのかなって」
そっか……。
わたしは自分に置き換えて想像してみる。
もし、大学のわたしよりずっとキャリアのあるできる女性の先生と星崎さんがうわさになったりしたら。
きゅーっと、ももちゃんの切ない気持ちが伝わってくる。
「なーに弱気なこと言ってんの!」
どん、とももちゃんの背中をせいらちゃんがたたく音で、張り詰めた空気が一気に和らぐ。
「カリスマだかなんだか知らないけど、愛嬌とかわいさでいったらももぽんの圧勝よ!」
さすがせいらちゃん、わかってる。
わたしも加勢する。
「そうだよ。年上女性とはいえ、ももちゃんほどキレキレのつっこみをマーティンにするのは無理じゃないかな」
ももちゃんのちょっぴりこまったような笑顔がその場をつつんだ。
「二人ともありがと。かすり傷ほどのダメージだからだいじょうぶ。信じてるしね、マーティンの、いや」
そこで小さく、旦那のこと、と付け加える。
「きゃー、ダンナ、だって」
せいらちゃんがはしゃいでる。
いつもならわたしも同じ反応をすると思うけど。
「む、むふふ」
刺激されて思わずこぼした笑いに、するどいせいらちゃんにつっこまれる。
「夢っち。なにその笑い。ちょっと不気味」
この手のことに鋭いのはももちゃんもなんだ。
「夢、星崎王子となんかあった?」
びくり!
テーブルに頬杖ついて、せいらちゃんも観察のまなざし。
「さっきから思ってたの。今日の夢っち、どこか一味違うわ」
えっ。そう? いつも通りのつもりだったんだけど。
「どのへんが、違う、かな?」
とうぜんのように、せいらちゃんとももちゃんは目を見かわす。
「どこって、肌もすべすべだし」
「唇もいつもより赤味増してるよ」
「まつ毛もくるんって上向いて。目はきらきらしてるわね」
「要するに、きれいになったってこと」
まとめたももちゃんには、まいりました。
さすが親友は鋭いね。
「じつはね――これ」
わたしは左手をテーブルの上に出した。
シルバーの薬指のリングが光っている。
恋をずっと応援しあってきた二人には。
ちゃんと、報告しなくちゃ。
「星崎さんに、プロポーズされました……」
「きゃっ!」
「やったじゃん、おめでと」
沸き起こる拍手にあ、どうも、と頭を下げる。
ももちゃんが手でマイクをつくってわたしによせてくる。
「プロポーズの言葉は?」
せいらちゃんが予想を述べる。
「きみの手料理が毎日食べたい、とか」
「いや、むしろ王子の場合、きみを毎日食べたい、とか」
「か、かんべんしてよ、二人とも~。ふつうに『結婚しよう』だよ」
照れ隠しに、食後の薬をお水いっぱいで飲み干すと、ももちゃんがふと笑顔を消した。
「まだ飲んでるんだね、薬」
あ。
二人の前ではつい、隠さずに飲んじゃったけど、気にさせちゃったかな。
「うん。やめちゃうと、今の状態が維持できないみたいで」
「そっか……」
「心配しないで。ちゃんと定期健診にも行ってるし。このあと夜も病院予約入ってるんだ」
それでも気がかりそうな視線を送ってくれるももちゃんだったけど、せいらちゃんはなにかに納得したようにうんうんうなずいた。
「でも病気のことももう安心ね。星崎さんなら夢っちのこと守ってくれるわ」
ふいに、その視線が下がって、長い髪がさらりと肩から落ちる。
「二人とも、大好きな人のものに、なっちゃったのね……」
せいらちゃんは、そのまま右手で顔を覆って……。
って、えぇ!?
「ちょっと、せいら! おおげさ」
ももちゃんから差し出されたハンカチで、せいらちゃんは涙をふく。
「ごめんなさい……」
じっと、せいらちゃんを見つめる。
その涙は、友情の色にも光っていたけど。
ほんの少し、女の子としての色があった気がした。
「ねぇ、せいらちゃんこそなにかあったんじゃない? 神谷先生と」
くしゃっと、せいらちゃんの頬がゆがむ。
いつになくハリを失った唇から、震える言葉がもれる。
「じつは……別れたの」
凍るような沈黙が落ちる。
「別れたって……どうして、突然、そんな」
動揺のあまり、言葉もとぎれとぎれになってしまう。
せいらちゃんは両手で顔を覆って、今度こそあふれる涙を抑えきれていなかった。
「わからない。あたしにも、ぜんぜんわからないの」
その背中を優しくさする手がある。
ももちゃんだった。
「せいら、落ち着いたら話して。あたしたち、仲間でしょ」
たっぷり五分くらい、せいらちゃんは声を抑えて泣いていて。
それから、ゆっくり話してくれた。
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