④ クール系ホストは野性的 ~もも叶の語り~

 ソファに腰を下ろすやいなや、マシンガンのようにせいらに話しかけるパーシーを横目で見つつ、まずいなと思う。

 はじめはあんたなんかおよびじゃないって感じだったせいらが、徐々にその勢いにのまれつつある。チャラ男に優等生女子っていうのは、少女漫画によくあるパターンだ。

「気になるの? あっちの連れの子のこと」

 はっとして、あたしはすぐとなりの男の子を見た。

 いけない、今はあたしもこの人と話さなきゃいけないんだった。

 外見は、月のような銀髪に、夜空のような目。見たところ、あたしとそう年変わらなそう。

 さすがにホストなだけあってイケメンだけど、あんまりホストらしくない系統だった。

 きりっとしててクールな感じ。

 向こうのパーシーとちがってずっと黙ってて、今やっと口を開いたし。

「パーシーなら心配ない。害はないから」

 見事に考えを見抜かれて、しょうがなく認めた。

「うん、ごめん。実は気になってたんだ。二人とも、大事な友達で」

 にこりともせずに、彼が答える。

「別に。無理に話しかける必要とかないから。友達の付き添いで来るって人もいるし、その気ない人を無理にしゃべらせるとか、あんま趣味じゃないし」

 ホストのくせにそんなこと言っていいんだろうか。

 でもどうしてかその響きはやな感じがしなかった。

 はからずも笑いかけてしまう。

「ううん、せっかく知り合えたんだもん。よろしくね。あたしもも叶。そっちは?」

 ふと意外そうに目を開いて、彼は口の端だけで笑った。

「エドワード。ここじゃみんな、エドっていう」

「エド! よろしくね」

 ひとまずこれで会話のきっかけはつかめた。

 注文したドリンクが来ると、それを気軽そうに飲んで、エドは切り出した。

「あんたも大変だね。カレシとケンカしてこんなとこまでくる決心をして、乗り込んだら乗り込んだで、友達の心配なんだ。顔に似ず苦労好きなの?」

「いやー、それほどでも。あたしも緊張してるっていうか。カレにやきもちやかせるために思い切って乗り出したとはいえさー。なんせマーティンってば、腹立つんだから!……って」

 べらべら動き出した舌が、とまる。

 にやりと、エドの青い目が笑った。

「なんでわかったの!? カレシとケンカしたって!」

「なんでだと思う?」

 すっと、その目が凍り付いた湖のように静かなものに変わる。

 がっと腕が近くの壁にかけられて、追い込まれる。

 ささやくように、すぐ近くから声が降って。

「それは、オレの出身本がダークファンタジーで、正体は悪魔だから。人を陥れるために、どこまでも見通せる第三の目をもってる」

 あたしはぷっと噴出した。

「嘘」

 大胆不敵にそのきれいな目を見返す。

「悪魔が、ホストクラブに来たくせに気もそぞろになってる女の子のことなんか、察してくれないでしょ」

 ふっと口元をゆがめて、彼はあたしを解放した。

 わしゃわしゃと、そのきれいな銀髪を乱す。

「あーあ、つまんねーの。この嘘、だいたいの客には通用すんのに」

「えー? そんな低レベルなのがー?」

 くっくっとエドは喉で笑った。

 そして、一段低い声で言う。

 けど、あんたはおもしろい、と。

「言っとくけど、たとえ話のレベルじゃ嘘じゃないよ。オレって嘘つきだし、演技もヘタじゃないんだ。それくらいのこと見抜く観察眼はある。ついでに言うなら、自由になる金も多少はね。つまり」

 もう一度顔を使づけられたとき、ほのかに香ったのは、危険な魔法のような、甘い香り。

「今まで興味がわいたもので、手に入れなかったものはないんだよね。――この意味、わかる?」

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