エピローグ
秋がもうすぐ終わろうとしている。
平和が戻ってさっそく、マンションの部屋に、かぼちゃやリボンを飾ってみんなをお出迎え。
今日はリビングのソファでガラステーブルを囲ってお勉強会だ。
「夢、疲れてない?」
「夢っち、最近眠れてる? いやな夢と、夜中に目を覚ます頻度を統計にするから教えてちょうだい!」
ももちゃんとせいらちゃんのせりふはこのところ毎日繰り返されている。
「ありがとう、二人とも。だいじょうぶだよ」
「もうすぐ中間テストだろう? 疑問点があれば教える」
「マーティンもありがとう。でもわからないところは、授業のたび神谷先生にきくようにしてるから」
「マーティン、なんならこっちをお願―い」
「ももぽんは少しは自分で考えなさい」
となりのキッチンのテーブルでは神谷先生と星崎さんがくつろいでる。
「まるで護衛隊すね」
「夢ちゃん甘やかし同盟の仲間がふえるのは喜ばしいけどね」
ことりと星崎さんの目の前に、スポーツドリンクがおかれる。
「疲弊が激しいのは、夢未ちゃんだけじゃないでしょう。一時でも病気をもらいうけたんすから」
星崎さんはおおげさに笑って、ペットボトルの蓋をあけた。
「泣けるね。さすがはオレの下僕だ」
わしゃわしゃと、神谷先生は黒檀の髪をかき乱す。
「たく人騒がせな。じぶんでひきとった子猫ちゃんは、責任もってさいごまで面倒みてくださいよ。過労死で倒れたって今度は受け取りませんからね」
そう言って、星崎さんになにかを返した。――通帳のようだ。
「肝に銘じておこう。今回のことで実感した。夢ちゃんはほうっておくとなにをするかわからない」
ちら、とこちらに向けられた視線は、やっぱり厳しい。
ごまかすように、私は笑った。
「えっと、ほ、星崎さん。明日提出する計画表、テスト勉強今日やりましたってところに、保護者のサインください」
「はい、わかりました」
キッチンテーブルに持っていた勉強時間表にはかなりのマスがぬりつぶされている。
えへん。どうでしょう。
星崎さんは――複雑そうなお顔。
「……がんばっているようだけど、ちょっと無理してないかい」
わたしもつられて苦笑いしてしまう。
「それ、さっきもももちゃんたちから。だいじょうぶって言ってるのになぁ」
ぐっと両手でこぶしをつくってみせる。
「さいきん調子がいいんです。きっと、星崎さんが戻ってきてくれたからです」
にっこり笑顔をつくって、元気アピールだ。
「ほんとに、よかったぁ」
「……」
星崎さんは、無言で神谷先生に向きなおった。
「龍介、少しこの場を頼む」
にわかに席を立ちあがって、戸口に向かう。
「へ? ちょい、どこ行くんですか。買い物すか」
振り返らずに立ち止まって、彼は言う。
「行方不明のルーシュンを見つけだして、今度こそ夢ちゃんの病気をこの身体に移してもらってくる」
……。
えぇぇ!
神谷先生はこめかみに右手をあて、左手をひらひらとふった。
「凝りませんね。勝手にどうぞ」
「あわわわ星崎さん! だめです、カムバックです!」
かけよっていって、必死に、その背中に抱き着いた。
そのとき、ピーっとキッチンから湯気の音が。
「しまった。さきにパスタを鍋から別容器に移さなくては」
あわてて戻ってくれる星崎さん。
ほぅ、ひとまずよかったぁ。
そんなこんなで、わたしたち。
一応平和を楽しんでます……。
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