③ 文学乙女の傍ら ~マーティンの語り~
ブラックブックタワーになりはてたビルに乗り込む三人を、僕は通りの影からじっと見ていた。
思わず、声に出してつぶやく。
「三人だけで危険な場所へのりこむなんて、いったいなにを考えてるんだ」
迷わず、後を追いにふみだした身体を、とめられる。
「マーティン少年よ」
ふりむくと、肩に手をおいてきたのは、神谷先生だった。
「ここは、見送ろうぜ」
「でも、神谷先生」
その目がふせられ、首がゆっくりと横にふられる。
「本と、本のもつ大切なものを取り戻せるのは、あの子らだけなんだろ。オレたちに何も言わずに行ったってことは、敵がそう指定したことも考えられる」
「だからなんだって言うんですか。理不尽で、卑怯なやりかただ。もも叶は――、せいらも、夢未も女の子なのに」
「まぁ待て。だからこそこっちも正攻法じゃだめだってことだ。こういうのは一斉に繰り出してやられるより、ピンチのとき助けられる人員を残しとくもんなんだよ」
その言葉に、かろうじて、はやる足をとどめる。
「一理、あります」
神谷先生はすぐ横のベンチに腰を下ろした。
「安心しな。せいらたちが、定刻まで戻らなかったら、そのときはオレだって自分をおさえる自信がないし、その気もさらさらない」
ややうつむいたその目が、すごみを増す。
「死ぬ気で助けるから、悪いけど、お前のこともかばってる余裕ないぜ」
すとん、と僕はその横に腰を下ろした。
「それはこっちのせりふです。今のうちに謝っておきます。もも叶たちのために、敵に踏みつけにされた先生を見限ったら、すみません」
「そのいい度胸に免じて、許す」
「ありがとう」
僕らはとなりあって、じっと駅ビルを見つめた。
それ以上の会話はない。
体力はとっておくにこしたことはないだろう。
定刻まで、ここでがんばるのだから。
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