⑭ 悪の王子のお兄さん

 帯紙公園の前の通りをぐるぐる歩き回って、わたしとせいらちゃんはブラックブックスの一員らしき人を探していた。

 でもなかなか見つからない。

「このあいだのシャルロッテさんやジェーブシキンさんみたくやっぱり黒ずくめなのかな?」

「そうとも限らないわ。雪の女王は、全身銀色だったってももぽん言ってたし」

 たしかに。

 雪の女王さんの場合は、黒い服を着たら、もはや雪の女王さんじゃないかも。

「本の中のキャラクターってイメージ商売の人も多いから、ブラックブックスの制服規制は緩いのかなぁ?」

「そうねぇ。最近だと任意で制服が支給される会社も――って、あのね夢っち。今はそんな話してる場合じゃ――」

 うわっ!

 そのとき、どんっと、だれかとぶつかって、わたしは勢いよくしりもちをついた。

「ごめんなさい! わたしよそ見してて。あの、だいじょうぶです――」

 か、と言うまえに、手を差し出されて、反射的にその手をとる。

 真っ黒い手袋に包まれた手だった。

 その手に助けられて立ち上がってみると、目の前に立っていたのは――えっ。

 黒いシャツ、黒くてすらりとしたズボン、上に羽織ったジャケットの肩の部分や大きく折り返した襟元には金色の飾りがついている。背中には黒くて広いマント。

 すごい、まるで悪の国の王子様みたいなかっこう。

 服装からして男の人かな? たぶん。

 あやふやなのはその人が黒に金の模様のついた仮面をつけていたから。

 あっと思う間に、彼はかがみこんで、わたしの身体についた汚れをはらってくれる。

 なんか悪いな。ぶつかっておいてここまでしてもらうなんて。

「ごめんなさい。わたしは、だいじょうぶだから――」

 よかった、というようにうなずくと、彼は、道に落ちている何かを拾い上げた。

 さっき落としちゃったのかな?

 本みたいだけど――。

 そこで、せいらちゃんの声が飛ぶ。

「夢っち! その本!」

 彼がマントにしまう直前、わたしにもたしかに見えた。

 本のタイトルは――『飛ぶ教室』。

 そう思ったときにはもう、彼は軽やかにマントをひるがえして、駆け出していた。

「待って! 悪の王子のお兄さん!」

「ブラックブックスの手先、逃がさないわよ!」

 わたしとせいらちゃんは、彼を追って、走った。

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