⑰ ブラックブックスの闇

「なるほど。書簡体小説の登場人物たちがブラックブックスのメンバーに」

 薄茶色のカウンター席で、コーヒーをすすりながら、ケストナーおじさんがつぶやいた。

 あたしとせいらは今、『秘密の花園』にいる。

 ケストナー先生とモンゴメリさんに、事件のあらましを報告しに来たんだ。

「なんか、考えちゃったな。ジェーブシキンさんだっけ? あのおじさんが言ってたこと」

 好きな人を不幸にした社会を好きになれるか。

 あたしたちにあの人は、そう問いかけた。

「あたしはちょっと、彼らの気持ちがわかる気がしたわ」

「せいら――」

「ももぽんにはない? 今いる場所がいやだって思ったこと」

「それは――」

 あたしにも、ある。

 いい子が自分勝手な子たちに傷つけられるのを見たとき。

 みんなと仲良くなりたいだけなのに、なぜかいじわるをされたとき。

「もしかして、誰もが、ブラックブックスに入る要素をもってるのかも……」

「なんだい、事件の最初からしんみりモードはいただけないな」

 ケストナー先生。

「それはそうだけれど。今回敵対する組織の闇の深さを知ったら、そう楽観的にはなれないでしょうに」

 モンゴメリさん、そうなの!

 ケストナーおじさんはコーヒーをくゆらせながら、言った。

「だがきみたちは、今、この時代がなくなればいいと思うかい?」

 それは――。

「いや

 いやだ」

 あたしとせいらは即答した。

 本読んで、しゃべって、時々勉強して。

 大好きな人と友達がいて。

「やっぱりあたし、この時代から本を守りたい!」

「その意気だ、ルイーゼちゃん」

 場が少しだけ明るくなって、話題は別のことに移った。

「今日だよね」

「えぇ。考えてもしかたないけど」

 そりゃ友達だもん。

 考えちゃうでしょ。

 めくばせしたせいらは、ぎゅっと両手を組み合わせた。

「夢っち、無事でありますように……!」

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