⑬ 現れた敵 ~もも叶の語り~

 木々に囲まれた周辺の広間を探すと、マーティンはいた。

 地道に少ない木なんか拾ってるから、

「お~ば~け~」

 おどかしてやった。

「びっくりした。もも叶か」

 大成功。

「このあたりには落ちてる木がないから、奥で探してくるって神谷先生が。危ないからここで待ってろって言われてそれきりなんだ」

「なるほどね」

 ひとまず、居場所がわかって安心だ。

 手近な切り株に、二人並んで腰かける。

 なんとなく黙っていると、マーティンが切り出した。

「じつは、気になってることがあって」

 いきなり、なんだろう。

「ジョニーから、手紙をもらったんだ。『もも叶ちゃんが好きだからもう君とは親友でいられない』って」

「……そう、なんだ」

 その手紙、うそだよ。

 安心して、マーティン。

 そう言わなきゃいけないのはわかってるのに、暗いかげが心にさす。

「……マーティンは、どう返したの?」

 ものすごく、気になった。

 彼は、しっかりと言った。

「それでもジョニーと友達でいたいって」

「そっか……」

 それでいいはずなのに。

 マーティンとジョニーには仲良くいてほしいのに。

 なに、この寂しい気持ち。

 ジョニーはもうマーティンに遠慮しないってはっきり言ってた。

 なんでかは理解不能だけど、それほどまで、あたしを好きだって言ってくれてる。

 でもマーティンは、その友達を捨てる気はない。

 ううん。

 そういうマーティンだから好きなの。

 でもだからこそ、不安になるんだ。

 たまらなく心が寒くなる。

 いじわるなくらい、強く、強引に奪われたいと思う自分がいる。

 あたしが、してほしいのは。

 気がついたら、ぎゅっと、彼に抱き着いていた。

「マーティン、してほしい」

「もも叶?」

 優しく、頭をなでてくれる彼。

「そうじゃなくて。……触れてほしい、唇に」

 顔が見えなくても、カレが沸騰していることは経験でわかる。

 それでもなぜか今は、言葉がとまらなかった。

「マーティンは、いやなの……?」

「いや、そういうんじゃなく。なんていうか」

 わかってたけど。

 すこしのため息と一緒に、あたしは立ち上がった。

「ごめん。困らせたね」

歩いていこうとしてたその腕を、つかまれる。

「もも叶」

 振り向かされて、彼の真剣な目にとらえられる。

「大事にしたいんだ。あせってふみつけにするようなことはいやだ。その点で僕は」

 ちょっと言葉を飲み込んで。

 でも彼ははっきりと言った。

「きみを決して、ジョニーには任せられない」

 ……!

「あいつは僕より大人だし、穏やかで優しいし、考え深いし。でも、きみのこととなると、そのあいつが 向こう見ずにつっぱしる。好きな子をそういう手には、やっぱり渡すわけにはいかない」

 そしてまた、優しく頭をなでてくれる。

「ゆっくり、近づいていきたい。だから今は」

 あたしはほっぺにあたたかい感触を受けた。

「これで、許してくれるか」

 彼は、あたしをその手で守りたいって思ってくれてるんだ。

 ほかの人の手じゃなくて。

 そのことが、泉のように心にいきわたる。

 返事の代わりにお返しをしようとして――唇が空振りする

 空から伸びてきた縄が彼の身体に巻き付いて、とらえると、木の上まであがっていく。

「マーティン……!」

「もも叶、逃げるんだ」

 高いその大木の上には、女の人がいた。

 黒いドレスとケープをまとっている。

 シルエットの中で唯一赤い部分が、うごめいた。

「恋気分は、我々の盗みのターゲット。彼はいただいたわ」

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